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フィールド日記

2012.10.02

貴重な虫こぶが発見されました

  2012.10.2 Tuesday

                                     
9月12日に矢作川水系森林ボランティア協議会の指導のもとで高校1年生が手ノコで間伐実習を
しました。木を倒したことで開いた穴から今日も太陽の光が差し込んでいました。降り注ぐ光を浴
びた切り株は明るく輝いていました。


 

光が照らしていたのは、切り株だけではありません。周辺の植物の葉にもやさしい光が注いで
いました。写真のヤブムラサキの葉の中心にあるのは、ムラサキシキブハケタマフシと呼ばれ
る虫こぶで、貴重なものであることがわかりました。タマバエの一種が形成している虫こぶですが、
成虫の標本はまだ日本に存在しておらず、生活史もわかっていないそうです。

 

               今日のことば

 私たちは原始的な生物から四十億年という想像を絶する時間をかけて進化してきました。
それだけの時間をかけて、地球という自然環境の中に生きるようにつくられているのです。
それをたかだか数百年の近代科学の歴史しかもたない浅はかな知恵で自然を支配しえたかの
ような錯覚に陥っているに過ぎません。
エネルギー問題だけではありません。
化学においても、工業においても、医療においても、私たちは自己を見失っているのではな
いでしょうか。
人間は何でもできると思い上がってはいないでしょうか。
人間は「虫けら」と同じ生き物であるということを忘れてはいないでしょうか。
人間としての節度を忘れているのではないでしょうか。

                                      

                                  柳澤桂子

2012.10.01

生徒がコオロギの卵を持ってきてくれました

  2012.10.1 Monday

                                     
台風17号が接近中に不思議なことがありました。ハチ目ミフシハバチ科のルリチュウレンジが
ツツジの植え込みの上で乱舞していたのです。簡単には数えられないほどの瑠璃色のハチが宙を
舞うのを初めてみました。台風の接近と何か関係があったのか、気になります。


 
台風の被害を心配しましたが、蕎麦畑の花は今日もしっかり咲いていました。早朝にはその近く
をエンマコオロギが歩いていました。その姿を見て、先週、中学年生の生徒がエンマコオロギの
卵を持ってきてくれたことを思い出しました。


 

 
今日のことば

 中国の書店で日本人著者の書物が引き揚げられたことについて、僕は意見を述べる立場にはない。
それはあくまで中国国内の問題である。一人の著者としてきわめて残念には思うが、それについて
はどうすることもできない。僕に今ここではっきり言えるのは、そのような中国側の行動に対して、
どうか報復的行動をとらないでいただきたいということだけだ。もしそんなことをすれば、それは
我々の問題となって、我々自身に跳ね返ってくるだろう。逆に「我々は他国の文化に対し、たとえ
どのような事情があろうとしかるべき敬意を失うことはない」という静かな姿勢を示すことができれば、
それは我々にとって大事な達成となるはずだ。それはまさに安酒の酔いの対極に位置するものとなるだろう。
安酒の酔いはいつか覚める。しかし魂が行き来する道筋を塞いでしまってはならない。
その道筋を作るために、多くの人々が長い歳月をかけ、血の滲むような努力を重ねてきたのだ。
そしてそれはこれからも、何があろうと維持し続けなくてはならない大事な道筋なのだ。

                                 村上春樹

2012.09.30

ソバの花が咲きました





2012.9.30  Sunday

不二聖心女子学院内のソバ畑の花が咲き始めました。受粉昆虫はさまざまで、アリだけでも何種か
確認できました。1枚目の写真のアリはキイロシリアゲアリです。3枚目の写真からわかるように
ソバの花には黄色い瘤状の蜜腺があり、ここから甘い蜜がたっぷりと出て、いろいろな昆虫を引き
寄せ、受粉の手伝いをさせています。私たちがおいしいソバを食べられるのは、この黄色い瘤のお
かげと言ってもいいでしょう。
台風17号が猛威をふるっています。農作物への被害が最小限にとどまることを祈らずにはいられません。

今日のことば


悲しみを受いれるとき
苦しみを受いれるとき
『受いれる』ことの
本当の価値を知る


『受いれる』(加島洋造)より

2012.09.29

休日がわかるサルたち





 

 2012.9.29  Saturday
聖心橋の近くでニホンザルの群れに出会いました。休日に学校に行くと、よく猿の群れに出会います。
猿は、学校が休日であることがわかっているように思えてなりません。警戒心もうすらいでいるようで、
たくさんの写真を撮ることができました。 

 

今日のことば

いま生物学者の中で、何を持って進化や発展を定義付けるかと言うと、「種の多様性」だ。最近、世界の
生物学者の意見がほぼ一致して、地球上での生物多様性こそが重要であると言われ始めた。
しかも、種はお互いに協力して生きているわけで、例えば井上民二は、イチジクとイチジクコバチの関係
を研究した。イチジクは緑色の果実の中央に小さい穴が開いていて、その中に花がある。その穴は特殊な
「鍵穴」のような形をしていて、その「鍵穴」に合う特殊なイチジクコバチにしか入れないような形にな
っている。「ケツァール」という千塚治虫の「火の鳥」のモデルになった鳥は、グアテマラやコスタリカ
にいるが、アボガドしか食べない。ケツァールはアボガドを食べた後の種を口から出すが、この鳥の強い
胃酸が発芽のトリガーとなり、その結果、アボガドは芽を出しやすくなる。ケツァールに栄養を与え、
そのかわり発芽しやすくしてもらっているのだ。このように、植物と動物はお互いに協力し合い、種の
多様性を拡げてきた。この協調関係を「共進化」もしくは「共生進化」と呼ぶ。特に、生物同士で「競争」
より「相利」の関係にあるものが、最近の研究でより多いということが解ってきた。
ここから予想されることは、人間も、生物多様性の価値観から、「競争」して相手を蹴落とすのではなく、
お互いに「相利」の関係にした方がより生き延びられる機会が多くなるということだ。民族や文化の違い
を超えて人類も「相利」の関係をつくることが、生物の生き方として優れていることを昆虫や植物から
学ぶ必要がある。

『緑の国へ』(稲本正)より

2012.09.28

イタドリ  ルリチュウレンジ  群がるヤマトシリアゲ

  2012.9.28 Friday

 東名高速沿いの道のイタドリの花の季節が間もなく終わろうとしています。ありふれたイタドリ
の花も近づいてみるとはっとするような美しさを持っています。この花を求めてたくさんの生き物が
集まってきます。

ルリチュウレンジがいました。ルリチュウレンジの幼虫は、ツツジの葉を食べます。おそらく
「温情の灯」の近くのツツジを食べて育ったルリチュウレンジではないかと思います。

 

 イチモンジセセリも翅を休めていました。翅の一文字模様がくっきりと写っています。

イタドリの葉の下にはバッタの死骸が落ちていて、ヤマトシリアゲが群がっていました。
ヤマトシリアゲは一匹で行動することが多く、写真のような光景は珍しいです。


 


今日のことば

 人間とは、人生とは、常に不安定なものではないでしょうか。飛行機を発明したライト兄弟は、
空を飛ぶという不安定なことを克服しようと思って飛行機を作った、と話したといいます。不安定
な時こそ、新しい何かを生むということもあると思います。
役者なら一度は演じたいとあこがれる役の一つがシェークスピアの「ハムレット」ですが、実は、
私は若いころからハムレットが好きじゃなかった。「生きるか死ぬか、それが問題だ」なんて、
そんなの、言っていること自体がおかしい。なんでそんなことで悩むんだ、と。こちらはガキの頃
から食えなくて、毎日空襲にあって逃げまわっていたんです。「今日はなんとか生き延びたぞ」って
思っていたんですから。
少年時代にあんな状況の中でも生きてこられた。役者になって、売れたり売れなかったり、苦しい
こともありました。そんな私がいつも思うのは「人間、太陽がある限り生きていける」ということです。
うろたえちゃあ、いけません。

                                 仲代達矢

2012.09.27

オナガササキリ  夕暮れの富士山

  2012.9.27 Thursday

 すすき野原でオナガササキリのオスが力強い鳴き声を響かせていました。2012年8月10日の
フィールド日記でオナガササキリのメスの写真を紹介しましたが、直翅目のキリギリス科の昆虫
の多くはオスとメスとでは姿が大きく異なることが、この写真からもよくわかります。


 
今日は出張で一日学校の外に出ていましたが、仕事を終えて学校に帰ると夕方の富士山が迎えて
くれました。秋の夕暮れ時の静かな富士の姿をながめていると、一日の疲れが癒されるようでした。


 

               

             今日のことば

           富士の冴え祈りの心諭しけり

                         西山民雄

2012.09.26

シロバナマンジュシャゲ

 

 2012.9.26 Wednesday
通勤途中に、稲刈りの終わった田に雀と烏と椋鳥が来て、落ち穂をついばんでいるのを見かけました。
田のふちにはたくさんの彼岸花が咲いていました。
不二聖心でも彼岸花は満開の時期を迎えています。プール近くの斜面で毎年、赤いヒガンバナが咲き、
校舎の裏やお茶室の近くではシロバナマンジュシャゲを見ることができます。

 

今日のことば


 ヒガンバナと同様に、種子を結ばないシロバナマンジュシャゲが雑種であることを最初に主張したのは
牧野富太郎であった。彼は専門誌『植物分類地理』に「今よくこの植物を観察してみると、これは疑いも
なく雑種であることがうなずける。そして、この両親は赤花を開くヒガンバナと黄花を開くショウキラン
であることが想像される」と書いた。ところが、この論文を読んださる高名な遺伝学者が、赤花と黄花と
の中間が白花になるとは考えられない、さすがの牧野も誤れり、と笑ったという。
しかし、その数年後には稲荷山資生などの細胞学者が核型分析と交雑実験をおこなって、牧野説が荒唐
無稽なものではないことを明らかにした。ただ、親の一方となった赤花種は日本の三倍体ヒガンバナでは
なく、中国のみに分布する種子で殖えることのできる二倍体のシナヒガンバナであろうと考えられた。
これが事実だとすると、黄花のショウキランは中国にも分布するので、シロバナマンジュシャゲの誕生の
地は九州だろうという牧野の推定は外れたことになる。だが調査した限りでは、中国大陸にはシロバナマ
ンジュシャゲは自生していない。中国の学者がシロバナマンジュシャゲと同定したものはよく似て非なる
ものであった。ルーツはどこにあるのか。
謎を秘めた美しい白花は、今年も静かに秋冷の夜に咲いていた。

                         『折節の花』(栗田子郎)より

2012.09.25

静岡県の要注目種モリアザミ

 

 2012.9.25 Tuesday
すすき野原で次々に花を咲かせて始めているモリアザミについて調べてみて驚いたことがあります。
なんと愛知県、奈良県、大阪府、高知県、宮崎県、長崎県では、すでにモリアザミは絶滅したとされ
ているのです。他にも15の県で絶滅危惧種か準絶滅危惧種に指定されています。静岡県の場合も要注
目種となっていました。
モリアザミはとりわけ丈の高いアザミです。青空に映える美しいピンクの花がいつまでも見られますよ
うにと祈らずにはいられません。




今日のことば

高校3年生の短歌

テスト前現実逃避がしたくなり初めて家の床を水拭き          
たくさんの友の言葉に励まされ六年(むとせ)経て知る皆の優しさ     
苦しみを味わうことには意味がある 心に沁みたシスターの言葉    
五時間目窓から覗く青空に平和の欠片広がれ世界に

2012.09.24

ワレモコウ  若山牧水の歌  オトギリソウ

  2012.9.24 Monday

  牧草地の入り口のところにワレモコウが咲いています。ワレモコウは、新潟県、福井県で
絶滅危惧Ⅱ類、長崎県で準絶滅危惧種に指定されているバラ科の植物です。若山牧水の歌に、
「吾木香すすきかるかや秋くさのさびしききはみ君におくらむ」という歌があります。
ワレモコウは、その寂しげな風情に深い魅力を感じさせる花です。

 

 すすき野原を歩いていて一つ気付いたことがあります。同じ場所に咲いているオトギリソウの
中に花弁の形の違うものがあるということです。オトギリソウは地域の固有種が多い植物ですが、
花弁の形の違いが何を意味しているのか、もう少し調べてみる必要がありそうです。


 

 

 
今日のことば

何か植物のことをたずねた時に、寺田(寅彦)さんは袖珍の植物図鑑をポケットから取り出し
たのである。山を歩くといろんな植物が目につく、それでこういうものを持って歩いている、
というのである。この成熟した物理学者は、ちょうど初めて自然界の現象に眼が開け来た少年
のように新鮮な興味で自然をながめている。植物にいろんな種類、いろんな形のあることが、
実に不思議でたまらないといった調子である。その話を聞いていると、自分のほうへもひしひし
とその興味が伝わってくる。人間の作る機械よりもはるかに精巧な機構を持った植物が、しかも
実に豊富な変様をもって目の前に展開されている。われわれは驚異の海のただ中に浮かんでいる。
山川草木はことごとく浄光を発して光り輝く。そういったような気持ちを寺田さんはわれわれに
伝えてくれるのである。

                                 和辻哲郎

2012.09.23

ヤマトシリアゲ(ベッコウシリアゲ)

 

 2012.9.23 Sunday

 今日は全国的に最高気温が30度を超える所がなく、ようやく秋らしい空気が日本列島を覆う
一日となりました。思えば、本当に暑い残暑の日々であったと思います。否が応でも温暖化の
ことを思わざるをえない毎日でした。昨日の「秋の30分ハイキング」の時には、温暖化指標の
蝶として知られるツマグロヒョウモンのメスが優雅にすすき野原の上を舞っていました。
今日の朝日新聞の天声人語には次のような一節が載っていました。


 先ごろの朝日川柳が嘆いた通り、まるで「春夏夏冬」の残暑だった。8月下旬から9月中旬、
北日本の平均気温は統計史上の最高を記録したという。遅れがちな秋とは別に、10年の単位で
みても温暖化は確実に進んでいる。



 「春夏秋冬」が「春夏夏冬」になるとは、何とも悲しいことですが、幸い自然界には秋の姿も
きちんと認めることができています。例えば、すすき野原では、夏の黒色のヤマトシリアゲが姿
をひそめ、秋型の鼈甲色の個体がよく見られるようになってきました。完全変態をする世界最古
の昆虫であり、交尾の時に求愛給餌をすることでも知られるヤマトシリアゲですが、夏と秋で体
の色が全く変わってしまうのもこの虫の大きな特徴です。(以前は、「ヤマトシリアゲ」と
「ベッコウシリアゲ」と呼び分けられ、別種と考えられていました。)
季節が失われていこうとしている今、改めて昆虫の季節型に注目してみるのもいいのではないか
と思います。色の変化だけではありません。キタテハのように季節によって体の形が変わるもの
も数多くいます。何万年と続く日本の四季が生んだ自然界の姿です。


 
今日のことば

転機になったのは、作家の雫石とみさんの番組を制作したこと。雫石さんは、極貧の農家に生まれて、
小学校もろくに出ていません。空襲で家族を全部失い、浮浪生活を送った後、施設に入ったんですが、
ひどい扱いを受け続けた。その彼女が45歳のある日、大学ノートを買って、日記をつけ始めた。
それ以来、書くことが支えになり、やがて作文コンクールに応募して、労働大臣賞をもらう。
それまで見下され、ののしられることしかなかったのに、生まれて初めて人間として認められたんですね。
その後も書き続け、65歳で最初の本を出しました。
87年に雫石さんは、日雇いの仕事でコツコツためたお金を寄付して、「銀の雫文芸賞」という文学賞を
作ったんです。なぜ蓄えを全部はたいて賞を作ろうと思ったのか。書くこと、読むこと、言葉が自分を
変えてくれた、救ってくれたという思いがあったんですね。97年、築40年の木造アパートに86歳の彼女
を訪ねた時、「日記がなかったら、とっくに自殺してますよ」とおっしゃった。「書かなければ生きられ
なかったの」と。その言葉をいただいて「書かなければ生きられなかった」という番組にしました。
その時、自分が何をすべきなのか、はっきり見えた。仕事が自分の人生にカチッとはまったんです。
目指すものが見えると、もう他の人のことは気にならなくなりましたね。
今、不安を抱えている人たちには、志を持つことで救われますよ、と言いたいですね。不況で職を失っ
ても、それはあなたの人間性のせいじゃない。自分が本当に何をしたいのかをちゃんと見つめて、自分
の言葉、志として持っていれば、それが必ず支えになってくれる。志というと、世のため、人のためみた
いに思いますけど、そうじゃない。志は自分を救うんです。                                                      

山根基世