フィールド日記
2013年08月
2013.08.07
カヤキリと口とカールのおじさん
2013.08.07 Wednesday
明日は第2回夏休み子供自然体験教室です。
体験教室の「生き物展示」のためにカヤキリを飼育しました。カヤキリは日本最大のキリギリス科の昆虫です。鳴き声もおそらく日本最大です。
飼育していて面白い発見をしました。エサとしてキュウリを与えていたのですが、カヤキリは中心から掘り下げていくような食べ方をするのです。食欲もキリギリス科の中では一番かもしれません。
特徴ある食べ方はカールのおじさんのような独特の口の形と関係があるようです。
カヤキリのレッドデータリストは以下のようになります。
絶滅危惧Ⅰ類 東京都
絶滅危惧Ⅱ類 群馬県
準絶滅危惧種 茨城県 栃木県 埼玉県 新潟県
奈良県 大阪府 広島県 高知県
今日のことば
ほんものは私たちを解放します。真の信仰とは、相手をのびやかに活かす動きを生み出します。相手のすこやかなよろこびを求めて奔走するイエスのまごころに触れた人々は「自分たちがありのままで神から大切にされ、期待されていること」に気づきました。
阿部仲麻呂
2013.08.06
ナナフシモドキとトゲナナフシの見事な擬態
2013.08.06 Tuesday
久しぶりにナナフシモドキ(いわゆるナナフシのこと)に出会いました。いつ見てもその見事な擬態に驚きます。一枚目の画像の中にナナフシモドキが写っているのがわかるでしょうか。
面白い偶然があるものです。ナナフシモドキに出会ったあとで今度はトゲナナフシに出会いました。群馬県では絶滅したとされている希少種です。こちらも脚を伸ばして精一杯、枝に化けようとしています。
ナナフシモドキもトゲナナフシも擬態だけが生き延びる手段の弱い生き物です。しかし、なぜかその弱さに心ひかれるものを感じます。
今日のことば
自然はいつも、強さの裏側に脆さを秘めている。そして私が魅かれるのは、生命の持つその脆さのほうだ。
星野道夫
2013.08.05
ヘリグロツユムシとツユムシ
2013.08.05 Monday
8月3日に夏休み子供自然体験教室が行われました。
学院ダイアリー 2013.08.03 【最近の様子】第1回夏休み子供自然体験教室が行われました
体験教室の朝、準備のために森に入っていくと頭の上からヘリグロツユムシが落ちてきました。ヘリグロツユムシは普段は木の上で生活していますが、人の気配を感じると驚いて落下してくることがあります。
こちらの写真はツユムシです。ツユムシは草原を生活の場としていますので、森の中で落下してくることはありません。逆にヘリグロツユムシがアザミの花に乗っている風景もまずありえません。近縁種でも全く異なる生活環境を好むことがあることを示す良い例です。
二種の違いは生息環境だけではありません。分布の状況も大きく異なります。ツユムシが広く日本以外にも分布するのに対し、ヘリグロツユムシは日本固有種です。グローバル化の時代に日本固有種が持つ意味を改めて考えたいものです。
今日のことば
あらゆる生命は同じ場所にとどまってはいない。
人も、カリブーも、星さえも、
無窮の彼方へ旅を続けている。
星野道夫
2013.08.03
ヒメギス マツムシ シロオビタリノフンダマシ
2013.08.02
いよいよ明日は「夏休み子供自然体験教室」です。
夕方、牧草地に動植物の生息状況の最終チェックに行きました。わずかな時間でいくつもの発見がありました。まずヒメギスの長翅型を不二聖心で初めて見つけました。
マツムシの成虫と幼虫の両方を写真に撮ることもできました。成長の速度は個体によってずいぶん違うようです。
シロオビトリノフンダマシとも久しぶりに再会しました。昼は鳥の糞に擬態し、夜間に活動するクモです。少し脚を開きかけているのがわかります。そろそろ活動開始でしょうか。
今日のことば
夕ぐれの時はよい時。
かぎりなくやさしいひと時。
夕ぐれ時、
自然は人に安息をすすめるやうだ。
風は落ち、
ものの響は絶え、
人は花の呼吸をきき得るやうな気がする、
今まで風にゆられてゐた草の葉も
たちまち静まりかへり、
小鳥は翼の間に頭をうづめる・・・・・・
夕ぐれの時はよい時。
かぎりなくやさしいひと時。
堀口大学
2013.08.01
矢島稔先生に学ぶ不二聖心の自然の豊かさ カヤキリとショウリョウバッタモドキ
2013.07.31 Thursday
昨日のNHKラジオの「夏休み子ども科学電話相談」で久しぶりに矢島稔先生のお声を拝聴することができました。
1983年に書かれた矢島稔先生の『昆虫ノート』を愛読してきましたが、その中に次のような一節があります。
とにかく四十年近く東京のまわりを虫を探して歩き回っているから、いつどこで何に会えるかという「昆虫ごよみ」が私の中にはできている。ところが近頃さっぱり会えなくなった種類がいくつかある。
直翅目(バッタ目)ではキリギリス科のカヤキリとクツワムシ。バッタ科のショウリョウバッタモドキである。特に後者はもう十年も会っていない。
この矢島先生の文章を読むと、不二聖心の自然環境がいかに素晴らしいかがわかります。カヤキリもショウリョウバッタモドキも不二聖心にはたくさん生息しているからです。7月27日にはカヤキリの声を今年初めて耳にし、一瞬ですが声の録音にも成功しました。一度聞いたら忘れられない野趣あふれる声です。
今日は「夏休み子供自然体験教室」の「生き物探しコンテスト」のために牧草地の生物の生息状況をチェックしたのですが、驚いたのはショウリョウバッタモドキの数が昨年に比べて明らかに増加していることです。今年はコンテストで探す昆虫にショウリョウバッタモドキを含めることにしました。
画像の芒の葉先の紫色とショウリョウバッタモドキの紫色のラインが同一の色であることに驚きます。若齢幼虫には薄紫のラインはありませんが、徐々に色がつきやがて背面がピンク色に染まります。
今日のことば
昨日の新聞から218 平成23年1月10日(月)
『ハチのふしぎとアリのなぞ』(矢島稔 偕成社)を読む
―― 駿東史上初の貴重な発見について学ぶために ――
12月25日に富士山トンボ池の会会長の加須屋真先生からうれしいメールが届きました。アリの研究家でもある先生に不二聖心で採集した四種のアリについて同定の依頼をしていたのですが、その返事が届いたのです。
4種の中に特別注目していた1種がありました。それは、昨年の8月5日に採集したアリです。採集した時のことは今もありありと思い出すことができます。
8月5日の午後、僕は理科の平本先生と裏のキャンプ場で、夜に行われる予定になっていたSOFISのキャンプファイヤーの準備をしていました。もうすぐ準備が終わるという時、突然風が吹き新聞紙が宙に舞いました。あわてて追いかけ、地面に這いつくばり、その上に乗るようにして新聞紙を押さえました。ほっとして前を見ると何やらクリーム色の粒の列が何十も塊になって動いているのが目に入ったのです。最初は何かと思いましたが、よく見ると黄色い粒それ自体が移動しているのではなく、それらはすべてアリに咥えられていたのでした。僕はすぐにこのアリはサムライアリではないかと考えました。平本先生にこれは貴重な発見であるかもしれないことを告げ、アリの行列の終着点を探してほしいと頼みました。さすが自然観察のベテランである平本先生は、丁寧にアリの行列をたどり、見事にサムライアリの巣の位置を確認してくれました。
その行動の様子と特徴のある大顎からおそらくサムライアリであろうと思いましたが、専門家ではないので一抹の不安がありました。そこで加須屋先生に同定の依頼をしたのですが、先生からサムライアリであるとの返事が届き、安堵するとともに僕の胸は喜びにあふれました。このサムライアリについは、平成21年の2月22日に静岡新聞の「しずおか自然史」(この連載で紹介された文章は昨年の11月に一冊の本にまとめられて『しずおか自然史』(静岡新聞社)という書名で出版されました。この本は静岡の自然の豊かさを伝えるすばらしい本です。その中の「ノコギリハリアリ」の執筆を担当しているのが加須屋真先生です。)でも取り上げられていました。その時の文章を次に引用してみましょう。サムライアリの驚くべき生態がよく理解できます。
イソップ物語のアリさんは働き者の代名詞となっているが、すべてのアリがこのように黙々と働く勤勉なアリばかりではない。サムライアリはクロヤマアリなどの巣を襲って繭や幼虫を奪い、羽化した働きアリを奴隷として使うことが知られている。
黒褐色をしたサムライアリの体長は四~七ミリ(女王アリは十ミリほど)で、長い鎌状の大顎は強力な武器に特殊化している。女王の世話や育児、巣作りや餌集めもせず、もっぱら地中の巣にいて、戦闘以外のいっさいの仕事はクロヤマアリにさせ、地表にはめったに出てこない。大きさも体色もクロヤマアリによく似ているので、私たちはサムライアリの存在にほとんど気付いていない。夏に結婚飛行を終えたサムライアリの女王はクロヤマアリの巣を捜して潜り込み、そこの女王をかみ殺して働きアリごと巣を乗っ取り、その巣の中で新生活を開始する。この時、クロヤマアリは侵入者を攻撃するが、撃退に失敗して自分たちの女王が殺されると新しい女王の世話をし始める。そして種の異なる新女王が産んだ卵の世話をする。
サムライアリがクロヤマアリの巣を襲う場面はめったにないが、二〇〇五年七月二十二日の午後、磐田市の桶ケ谷沼北側の平地で、女王アリを伴う約四百匹のサムライアリの集団が観察された。
サムライアリの女王アリがクロヤマアリの巣を襲う時に同行することは知られていない。サムライアリの隊列は幅五〇センチ、長さ二メートルに渡ってクロヤマアリの巣の中に入っていった。二分後、手ぶらのサムライアリ四十匹に続いて女王アリが出て来た。
次にクロヤマアリの繭四十一個をくわえた兵隊に続いて、幼虫五匹をくわえた兵隊が出てきた。この間、わずか二十分の出来事であった。そして、帰りは来たときよりも速足で巣に戻っていった。地下で繰り広げられたであろう壮絶な戦闘の様子はどのようなものであったのだろうか。
つまり、僕と平本先生は、奴隷狩りを終えて巣に戻ろうとするサムライアリの群れに出くわしたということなのです。その時の様子を撮影した十数秒の動画が今も残っているのですが、今見返してみると、確かに速足で帰っているのがよくわかります。加須屋先生のメールには、「サムライアリは県内の分布が明らかでなく、現状では富士市、磐田市、浜松市で確実な記録があるだけです。」とありました。不二聖心でのサムライアリの発見は駿東では初の記録ということになります。
このアリについてさらに詳しく知りたいという人には、矢島稔の『ハチのふしぎとアリのなぞ』(偕成社)を読むことをお勧めします。(この本には、サムライアリの他にもキバチやオナガバチやジガバチやクロアナバチなどの興味深い生態が紹介されていますが、そのすべての実物を不二聖心では見ることができます。)
そこには、アカヤマアリがクロヤマアリの巣の一部を占領する例が紹介され、サムライアリとクロヤマアリの関係は、アカヤマアリとクロヤマアリの関係がさらに進んだものであるという説が紹介されています。つまりこの種の労働寄生は段階を経て進化したものであるという考え方です。となるとサムライアリのような労働寄生は進化の最終段階ということになるのでしょうか。それとも自然界はさらに驚くべき進化の姿を見せてくれるのでしょうか。興味は尽きません。
さて、加須屋先生に同定を依頼したアリの中に体長の数ミリの微小なアリも含まれていました。これはウメマツアリであるということがわかりました。このアリもまた驚くべき生態の持ち主でした。ウメマツアリはオスとメスが交尾して子どもが生まれても、オスとメスの遺伝子が交じり合うことがないというのです。つまり生まれてくる息子は父親のクローンであり、娘は母親のクローンであるというわけです。北海道大学の長谷川英祐先生の研究グループがウメマツアリを研究対象としていて、その研究結果について昨年の十二月に刊行された『働かないアリに意義がある』(メディアファクトリー新書)の中で述べられています。長谷川先生は、「正直、この十年間の生物界で発見されたなかでいちばん驚いた現象です。」とお書きになっていますが、なぜこのようなシステムが生まれたのかはまだわかっていないそうです。不二聖心の駐車場裏の雑木林にはこのような未知の生態を持つ生物も生息していることがわかりました。
不二聖心の自然の豊かさは、きっと静岡県という自然豊かな県に裾野市が存在していることによる部分が大きいのではないかと思います。最後に、文中で紹介した『しずおか自然史』についての、静岡新聞に載った書評を紹介して、「昨日の新聞から218」を終わりたいと思います。
じずおか自然史 ーー貴重な標本、教育に活用ーー 大原興三郎
わが静岡県はかくも豊かな自然に恵まれていたのかと、あらためて目を瞠る一冊である。静岡新聞に連載されてのこの単行本化なのだが上質紙の写真はさらに美しい。
この多様な生物相は日本列島における県の稀なる地勢によるものらしい。富士山頂から駿河湾の最深部まで実に垂直7000メートル。富士川を挟んで東西に列島を分断するフォッサマグナ。東には伊豆半島が海に突き出し西の浜名湖まで岩礁、断崖、美浜の海岸線。そう、扇をおもいきり広げてその要を鋭くたてたような地形が、高山から深海の奇妙な生き物たちまでを育み潜ませているのだ。その地球の成り立ちを地質や化石や油井に語らせて壮大な「物語」は始まる。
南アルプスの高山の鳥たち。樹林帯には大小の哺乳類。谷川には両生類や淡水魚たち。やがて広野を流れる川辺に舞う蜻蛉や蝶や虫たちが語られ、食草としてもそれらを養う植物相。まさしく生物多様性ここにありである。この鳥瞰的広がりは、微細極まる虫の目に転ずる。魚のひげの本数、蝶のわずかな斑紋の違いによる分類。それぞれの専門分野の執筆者が、多分とって置きのキャラクターたちを競い合うように切ったカードの裏話が生態が写真が、面白くなかろうはずはない。
執筆陣が等しく案ずることに地球温暖化がある。海にも野にも森にも本来南方系であったはずのものが北上して在来種を脅かす。
逆に人為的に持ち込まれた外来種が野に放たれ雑交配さえ進む。アライグマ、ブルーギル等の食害も深刻だ。県レッドデータブックに載る絶滅危惧種も登場し、この先を憂えている。両方ともが、人間に起因するのだから、われらは地球にとってなんと厄介な生き物なのだろう。
県固有のものさえいる。この貴重な標本を一堂に。その教育的活用にはやはり自然史博物館がいる。執筆陣の悲願ともいえるその実現に向けてのNPOの活動に深く共感する。
静岡県全体の自然の中で不二聖心の自然はどのような位置づけになるのか、いつの日か、しっかり考えてみたいと思います。
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