フィールド日記
2013.05.10
「共生の森」のヒメウラナミジャノメ
2013.05.10 Friday
「共生の森」でヒメウラナミジャノメ(ジャノメチョウ科)の写真を撮りました。ヒメウラナミジャノメは翅の両面に独特の模様が描かれていますが、和名の由来は裏面の模様にあります。芥川賞作家の三木卓は裏面の白色の波状模様を「繊細な筆づかいで描かれていてみごとだ」と表現しています。
不二聖心には他にもジャノメチョウやサトキマダラヒカゲ、ヒカゲチョウなどのジャノメチョウ科の蝶が生息していますが、世界的な視野で見ると、すべて分布が異なっています。日浦勇の名著『海を渡る蝶』(講談社学術文庫)の中では、ヒメウラナミジャノメは、日本と対岸の朝鮮、中国東北部、アムールと、日本海を取り巻いたかたの分布をする「アムール型」に分類されています。なぜ同じ科の蝶が異なる分布を示すのか、そこに生物地理学にとっての大切な問いが隠されています。
今日のことば
(ジャノメチョウ科の蝶の中には)シベリア型とマレー型の広大な分布圏の間に挟まれて、狭い分布圏をもつ蝶も多い。その中で、日本と対岸の朝鮮、中国東北部、アムールと、日本海を取り巻いたかたちの分布をする一群がまず抽出される。日本から台湾、華中、華南、さらにヒマラヤ山脈に延びる群もある。日本列島特産種もある。これらをそれぞれ、「アムール型、ヒマラヤ型、日本型」と呼ぶことにする。ヒメウラナミジャノメ、キマダラモドキ、クロヒカゲモドキはアムール型、ヒメジャノメ、コジャノメ、ヒメキマダラヒカゲはヒマラヤ型、ヤマキマダラヒカゲ、サトキマダラヒカゲ、ヒカゲチョウ、ウラナミジャノメは日本型である
『海をわたる蝶』(日浦勇)より