フィールド日記
2012.11.19
変形したヤブムラサキの実
2012.11.19 Monday
第2牧草地のヤブムラサキの木にたくさん美しい実がついていました。ヤブムラサキの実は通常、直径3ミリ程度の小さな球形ですが、第2牧草地では変形した実を見つけることができました。
なぜ変形したのかは、現在調査中です。
今日のことば
モンテ・セナリオは、フィレンツェの北にある海抜八百メートルほどの山で、その頂上に、セルヴィ・
ディ・マリア修道会をはじめた、七人の聖人の由緒ある、大きな森にかこまれた、古い修道院があります。
ジョバンニ神父さんは、その森に点在する、昔、修道士の住んでいた小さな家のひとつを仕事場にしてお
られて、一年のうちの何ヶ月かを、そこで祈りと書きものにすごされるのだということでした。
やっと春のきた杉の木立には、すみれが咲きはじめたばかりでした。ながい冬のあいだに、そこかしこい
たんだ山の家に着くと、神父さんはすぐに、持ってこられた大きな聖母の絵を、壁にかける仕事にとりか
かられ、私には、庭をみてくれないかといわれました。大分雨が降らなかったので、白いあらせいとうや、
ばらのうわった花畑の土は、すっかり乾いてひびわれていました。庭のすみの天井井戸から、私は何杯水
を運んだでしょうか。何時間たったか、一応全体に水をかけおわったとき、家のなかから神父さんが声を
かけられました。「今日はこれぐらいでいいでしょう。召しあがりませんか」。窓ぎわの新聞紙のうえに
は、いくつかのリンゴとオレンジが、灰色の空気のなかで、ふしぎなほどあかるくみえました。つめを立
ててオレンジの皮をむいていると、雨が降ってきました。ほねおって水をまいた庭は、見る見るうちに、
しっとりとうつくしく濡れてゆきます。屋根や木の葉にあたる音をききながら、神父さんは、ぽつりとこ
う云われました。
――音がする。わたし達は、あまりさわがしい中にばかり住んでいて、おと、ほんとうの音とはどんなも
のだったか、わすれているくらいだ――
なにか、奈良の田舎の古寺にでも春雨を聴くおもいで、私も耳をすませるのでした。
須賀敦子