フィールド日記
2012.09.22
秋の30分ハイキング ジェミニ・ウィルス センタカアワダチソウ モリアザミなど
2012.9.22 Friday
今日、行われた「秋の30分ハイキング」には60名以上の方が参加してくださいました。
ハイキングの前に配布した資料を以下に転載します。
ハイキングのコースに生息している動植物を紹介します。
◎ムラサキシキブ
「日本の美しい実」という意味の学名(Callicarpa japonica)を持つ植物です。
不二聖心の森の中では同属の「ヤブムラサキ」もたくさん見ることができます。
◎茶
牧草地までの道の両側を含めて広大な面積の茶畑が不二聖心には広がっています。
不二聖心のお茶は減農薬・無添加・無着色で知られていて、使われる農薬の量は平均的な
散布量と比較して格段に少ないと言われます。品種としてもタダニシキや カラベニと
いった稀少な種類を含みます。
お茶の他に、今月から、そばも作り始めました。
◎クルマバッタ
東京都では絶滅したと言われるクルマバッタを不二聖心では、多い日には100匹以上目に
することができます。トノサマバッタやマダラバッタと区別がつきにくいですが、飛んでい
る時に翅に黒い模様がくっきりと入っていたらクルマバッタです。
◎ジェミニ・ウィルスに感染したヒヨドリバナ
不二聖心にはたくさんのヒヨドリバナが咲いていますが、牧草地の横の斜面のヒヨドリバナ
だけがジェミニ・ウィルスに感染しています。ジェミニ・ウィルに感染すると葉の色が黄色
く変色します。万葉人はこれを黄葉かと思い歌に詠みました。この万葉集の歌は世界最古の、
植物のウィルス感染記録例とされ、イギリスの科学雑誌「Nature」にもその記事が載りました。
万葉集の歌を以下に引用しておきます。
この里は継ぎて霜や置く夏の野にわが見し草はもみちたりけり
◎セイタカアワダチソウ
牧草地のセイタカアワダチソウの花穂が少しずつ黄色くなってきました。一時期、日本中の
すすき野原がセイタカアワダチソウに覆われるのではと危惧されましたが、他の植物を駆逐
していた化学物質がセイタカアワダチソウ自身の繁茂に対しても抑止力としてはたらいたらしく、
日本の秋の風景からススキが姿を消すようなことはまだ起こっていません。
◎ナンバンギセル
不二聖心のすすき野原ではたくさんのナンバンギセルを目にすることができます。
ナンバンギセルはススキに寄生することで知られていますが、すすき野原の減少によって
全国各地で数を減らしつつあります。一つの環境が消滅すると、その環境に依存している
多くの生物が同時に姿を消すことになることをナンバンギセルは教えてくれます。
万葉人はこの花の微妙な角度から物思いにふける人間の姿を連想し、ナンバンギセルを
「思ひ草」と名付けました。下の歌を詠むと、寄生という言葉を知らなかった万葉人が
ナンバンギセルとススキの関係には気付いていたことがわかります。
道の辺の尾花が下の思ひ草今さらになどものか思はむ (万葉集巻十一)
◎モリアザミ
すすき野原ではたくさんのアザミを見ることができますが、アザミは種の同定が極めて難
しい植物として知られています。不二聖心のすすき野原のアザミは専門家の方の同定によっ
てモリアザミであることがわかりました。モリアザミの根を粕漬けや味噌漬けにして食べる
地方があるそうです。
◎マユミ
「共生の森」には、高校1年生の環境学習の時間に、NPO法人「土に還る木・森づくり
の会」のご指導のもと、たくさんの種類の木が植えられました。写真の木は梅組の3班が
植えたマユミの木です。「共生の森」では既に鹿の食害が確認されていますが、マユミは
最も大きな被害を受けました。しかし、力強く復活し、オニヤンマが翅を休める平和な風景
も見られるようになりました。
今日のことば
話は変わるが、つい最近、ぼくは東海道新幹線で京都へ向かった。その車窓から風景をな
がめているうち、思わず愕然とした。稲はほとんど刈り取られ、田の縁や、川の堤、崖下の
いたるところに、黄の絨毯を敷いたかのような秋草が咲き誇っていたからだ。それはアメリ
カ産のセンタカアワダチソウの群生なのだった。
この植物は実に強い生命力を持ち、根から特別の液を出して他の植物を駆逐してしまうという
話を、ぼくはだいぶ前にきいたことがある。その人の話によると、アワダチソウの種子は米軍機
のどこかにくっついて、「入国」したのだという。最初、九州に根をおろし、やがて大阪、京都
へ達する。そして、さらに中部、関東、東北にまで着実に群落をひろげている、とのことだった。
まさに、その通りになったのだ。
ぼくが愕然としたのは、このアワダチソウによって、日本の秋の情感をこの上なく育んできた薄が、
みるみる姿を消しつつあることだった。ぼくは夢中で夕日に光り、そよぐ薄を車窓から捜した。
薄はまだかろうじて残っている。しかし、その姿は激減していた。おそらく、遠からぬうちにこの
詩情豊かな秋草は絶滅してしまうであろう。
『月は東に』(森本哲郎・平成4年6月刊行)より