フィールド日記
2012.08.17
ツマグロヒョウモンの幼虫
2012.08.17 Friday
2012年8月2日のフィールド日記で紹介したツマグロヒョウモンの幼虫が第2牧草地で見つ
かりました。今日は牧草地も耐え難い暑さでしたが、その中でも幼虫は芝生に隠れたスミレ
の葉を食べて着実に成長を続けていました。地球温暖化の影響で生息域を北に広げつつある
ツマグロヒョウモンは、もともとは南の地方のチョウでした。幼虫も南国のチョウらしく派
手な姿をしています。この派手さは警告色としての意味合いを持つものと思われますが、そ
の警告は人間にこそ向けられるべきものかもしれません。
今日のことば
われわれが存在の光栄を有する二十世紀の前半は、事によると、あらゆる時代のうちで人間
がいちばん思い上がってわれわれの主人であり父母であるところの天然というものをばかに
しているつもりで、ほんとうは最も多く天然にばかにされている時代かもしれないと思われ
る。科学がほんの少しばかり成長してちょうど生意気盛りの年ごろになっているものと思わ
れる。天然の玄関をちらとのぞいただけで、もうことごとく天然を征服した気持ちになって
いるようである。科学者は落ち着いて自然を見もしないで長たらしい数式を並べ、画家はろ
くに自然を見もしないでいたずらにきたならしい絵具を塗り、思想家は周囲の人間すらよく
も見ないでひとりぎめのイデオロギーを展開し、そうして大衆は自分の肌の色も見ないでこ
れに雷同し、そうして横文字のお題目を唱えている。しかしもう一歩科学が進めば事情はお
そらく一変するであろう。その時にはわれわれはもう少し謙遜な心持ちで自然と人間を熟視
し、そうして本気でまじめに落ち着いて自然と人間から物を教わる気になるであろう。
寺田寅彦(昭和1932年10月、中央公論)