フィールド日記
2012.04.14
ビロウドツリアブ
2012.04.13 Friday
昨年亡くなった作家、北杜夫の『どくとるマンボウ昆虫記』(新潮文庫)には、小学校4年の時に腎臓を病んで食事が満足に採れなくなり、可愛そうに思った家族から『昆虫図譜』を買ってもらった話が出てきます。少し引用してみましょう。
何月か『昆虫図譜』と寝ていたおかげで、私は虫の名を覚えた。なにかを覚えるということはそれほど大したことではない。それでも、ようやく起きられるようになって縁側まで出てみたとき、私はその効果を知った。もう春であった。その春の陽光の中に、一匹の虻が宙からつりさげられたようにじっと浮んでいた。綿毛のかたまりのような可愛らしい虻である。一目見て私にはその名称がわかった。ビロウドツリアブ。彼女とはじめて出会った筈だのに、私はずっと以前からの旧知のような気がした。むこうではそんなふうに思わなかった
らしく、アッというまにどこかへ消えてしまった。しかし私にとっては、自分の住んでいる世界がいささかなりとも広くなったように感じられたのである。
ここに出でくるビロウドツリアブを今朝、キャンプ場で見かけました。綿毛のかたまりのような可愛らしいアブでした。
今日のことば
人生のどこかで、ふと心を自分の内側に向けてみることだ。
そこに見つけたものから、少しずつ始めればいい。
加島洋造