校長室から

2017.04.07

2017年度のはじめに (2017年4月7日)

不二聖心女子学院2017(平成29)年度学校目標
実行力を養う ~ Bring Joy to Others ~

不二聖心女子学院では、カトリックの精神に基づき、「魂」「知性」「実行力」の各領域をバランスよく育み、「社会に貢献する賢明な女性」として成長していくよう準備します。これら3つの領域が統合されていくためには、皆さん自身が各領域をご自分と関連づけて意識していくことが必要です。そこで、本学院では、毎年、一つの領域に焦点をあて、年度目標に取り入れています。本年度は、「実行力を養う」を意識する年にあたります。より具体的な目標としては、“Bring Joy to Others”を掲げることといたしました。

1)「喜びの訪れ」 “その子はあなたにとって喜びとなり、楽しみとなる。”(ルカ福音書1:14)

 クリスマスで読まれる聖書の箇所には、「喜び」について語られたものが多いです。クリスマスとはイエス・キリストの誕生の出来事をいうのですが、イエスの誕生そのものが大きな「喜び」の訪れであったということです。それを告知された母マリアは「私の魂は主をあがめ、私の霊は救い主である主を喜びたたえます」(ルカ1:47)述べ、イエスに先立って生まれ、その道を準備するよう召されたヨハネの誕生に関しても「その子はあなたにとって喜びとなり、楽しみとなる。多くの人もその誕生を喜ぶ」(ルカ1:14)と書かれています。
新しい命の誕生の喜び――、これは皆さん一人ひとりにもいえることです。生まれたばかりの時、何かができたわけでもないでしょう。この世に生を受けたという事実、そして皆さんの存在そのものが、ご家族にとって大きな「喜びの訪れ」であり、神様がくださった最高のギフトなのです。これは、あなた方が本質的にもっているかけがえのない価値です。どうぞ、ご自分を大切にしてください。同じように他の人をも大切にしてください。そして、決して消えることのない深い喜びとはどういうものなのかを思い巡らしてみましょう。  皆さんが「物」としてのギフトと異なる点は、成長の過程で、思考し、学び、変化し、周囲に変化をもたらす力をもっているということです。人は、常に”will be”(「なっていく」存在)です。本年度は、一人ひとりがもつ「喜びを生み出す力」を意識しながら、「実行力を養う」一年といたしましょう。

2)子供たちを通してこの世界に愛の力が花開くように

 この目標は、創立者聖マグダレナ・ソフィア・バラのお言葉 ”Be humble, be simple, and bring joy to others.” からとりました。皆さんには、ソフィア・バラの思い、学院の教育理念、そして世界やご自分をとりまく現実に照らしつつ、具体的に取り組んでいただきたいと願っています。
私たちの創立者は、未来を担う子供たちの教育にこそ世界をよりよく変容していく鍵があると考え、聖心女子学院を創立しました。1852年に生徒に向けて書かれたお手紙の中に、次のような箇所があります。

利己主義が蔓延して悲しむべき荒廃をもたらしている現代こそ、聖心(みこころ)の子供であるということに神様の特別な使命が与えられています。この特別な使命とは、イエス・キリストの愛をまだ知らない多くの人に、その愛を伝えるために生きるということです。皆さんの行いは、言葉にまさって世の人々の心を動かすものとなるでしょう。しかし、そのためには、神様が下さるはかりしれない恵みに信頼しながら、日々の生活を通して、今のうちに自分を準備しなければなりません。

このお言葉は、21世紀に生きる私たちにも褪せることのない響きをもっています。教皇フランシスコは、『福音の喜び』(使徒的勧告:2013年11月24日)の中で、「多様で圧倒的な消費の提供を伴う現代世界における重大な危機は、個人主義のむなしさ」であり、それは人と人の間のきずなの成長と安定性を弱めるものであると述べ、その後も無関心のグローバル化について繰り返し述べておられます。同時代の空気を吸っている私たち自身も、このような傾向と無関係ではありません。どうぞ、時代に流されず、キリストの聖心(みこころ)に捧げられた学院で学ぶあなた方が共有する使命について考えてみてください。そして、一人ひとりに与えられている固有の使命についても深めていっていただきたいと思います。

3)“Bring Joy to Others” 身近な実践を通して <創基100年に向けて>

本学院は、日本の聖心女子学院の中で、唯一、前身となる学校をもつ学院です。不二農園(1914年創設)の創設者である岩下清周が、1920年、長男の壮一神父様を校長に創立した温情舎小学校です。農園も学校も、ヨーロッパの文化や思想に親しんだ岩下家のキリスト教的ヒューマニズムに則った先駆的なものでした。2020年には温情舎小学校の創立から数えて100年となりますので、3年前にあたる本年度から、創基100年の準備を進めていきたいと考えています。
このような聖心となる以前の歴史の中にも、“Bring Joy to Others”の実践をみることができます。たとえば、清周は地域の人たちのため、私財を投じて黄瀬川に県内初のコンクリート製のアーチ橋を架け、幅広い人脈を生かして新しい専門的な農業を学ぶ場を作り、地域の発展に寄与しました。茶園の中に今も残る大きな桜や楓の大木は、清周が農園で働く人々が木陰で憩えるようにと植えたものです。復生病院で日本人初の院長を兼任された壮一神父様は、毎夜、どんなに忙しくても、必ず病棟を一回りしてから床につき、その足音はハンセン病で苦しむ人々の「闇を照らす足音」と言われました。ロンドンで邦人初の聖心会のシスターとなった三女亀代子の存在が、不二農園・温情舎の流れと、聖心の流れを一つにしていくのですが、彼女もまた聖心女子大学などで教鞭をとった後、戦後の混乱期に困難な状況にあった女性を支えるため清周寮の建設に尽力されました。この方々は皆、身近なところから“Bring Joy to Others”を実践された方々でした。だからこそ、大きな功績を残されたともいえるでしょう。

将来、「社会に貢献する賢明な女性」となっていくようここに集められた皆さん、皆さんの存在や言動が、周囲の人にとって、安心感、信頼、希望、勇気、慰め、励ましにつながっていくよう努めてまいりましょう。学院での友人、上下級生や先生方とのかかわり、そしてご家族や社会とのかかわりが、喜びを分かち合う日々の積み重ねとなっていきますように。お一人おひとりの喜びを生み出す力に期待しています。

2017(平成29)年度 始業式にて