フィールド日記
2012年08月
2012.08.31
芙蓉の花とイチモンジセセリ
2012.08.31 Friday
ヴィラフジ(黙想の家)の前の芙蓉の花が咲き始めました。よく見ていると、この花のところに、いろいろな生き物がやってきます。今朝はイチモンジセセリが蜜を吸いにやってきました。
イチモンジセセリは、初秋に多数の個体が一定方向に移動することで知られています。このイチモンジセセリも芙蓉の栄養を糧に遠くへ旅立っていくかもしれません。
今日のことば
ニホンカワウソの絶滅が告げられ、野生ハマグリはその危惧ありとされた。メダルに沸き、
領土で揺れるひと夏の喧騒の陰で、小さな命が消えてゆく。
天声人語(2012.08.31)より
お知らせ
9月22日(土)の学校説明会終了後、希望者を対象に「秋の30分ハイキング」を不二聖心女子
学院の校内で実施することになりました。詳しくはトップページの「公開行事」をご覧ください。
2012.08.30
クルマバッタ
2012.08.30 Thursday
牧草地からキャンプ場へと続く新しい道をつくったところ、いろいろな生物がそこに集まってきました。
写真のバッタは牧草地から新しい道に移住したと思われるクルマバッタです。クルマバッタは東京都では既に絶滅したとされているバッタです。人間が環境に手を入れたことによって絶滅危惧種の生息域が広がりました。
人類の登場以来、あらゆる生き物が人間の活動の影響を受けてきました。少し大げさな言い方ですが、人間の作った道によって生息域を広げたクルマバッタは、人間と自然の長い関わりの歴史についても語りかけているように思えます。
今日のことば
詩を書きはじめたころ「さびしさを大切にしなさい」とある詩人にいわれたことがあります。
「大切に」とはどういう意味なのか、私ははっきりとつかむことが出来ませんでしたが、いま、その意味がわかったように思います。それは、さびしさを知る心を出発点にして、何かを創りだしてゆくことなのでしょう。
高田敏子
お知らせ
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冊子『不二の自然4』(「不二の自然」91~120所収)が完成しました。購読を希望する
方は、一冊につき切手400円分(送料込み)を同封し、下記の住所にお申し込みください。
(封筒にはお名前とご住所を必ずお書きください。)
〒410-1126
静岡県裾野市桃園198 不二聖心女子学院 「不二の自然」係
2012.08.29
ツルボ
2012.08.29 Wednesday
牧草地からキャンプ場へと続く新しい道にツルボが花を咲かせ始めました。ユリ科のツルボは、
人々が飢えに苦しんだ時代は、その根が食用とされていました。このような美しい花を咲かせる
植物が人々を飢えから救っていたという事実を不思議に思います。
今日のことば
十代の夏のちょうど今ごろ、家のベランダでアブラゼミの羽化を見たことを思い出す。抜け殻
につかまって青白く柔らかい羽をゆっくり伸ばす姿は、息が止まるほど美しかった。セミの長
くも短い生涯を思い、切なくもなった。世界はいのちに満ちあふれていた。
最相葉月
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静岡県裾野市桃園198 不二聖心女子学院 「不二の自然」係
2012.08.28
コモリグモ
2012.08.28 Tuesday
ニホンカワウソが、正式に、絶滅危惧種ではなく絶滅種に規定されたというニュースを今朝見ました。
希少種の保全の必要性を改めて意識させるニュースでした。
腹部にイボ状の突起のあるクモを見つけたと思ったら、イボに見えたものはすべて子グモでした。
子グモを腹部に乗せたコモリグモのメスだったのです。子グモの中には、母グモの顔のところまで移動してきてしまっているものもいます。
クモの専門家に問い合わせたところ、種の同定には子グモによって覆われてしまっている腹部の斑紋の確認が不可欠ということでした。子グモたちをどけてまで同定をするのはしのびないと思い、今回は種名を確かめることを断念しました。
今日のことば
ニホンカワウソがすでに絶滅していたとは。本書(『ニホンカワウソ ――絶滅に学ぶ保全生物学――』)
を読んで衝撃をうけた。私はカワウソがどこかで細々と生きていると信じ、土佐の海に探しにいったこと
もある。だが本書の内容は真実だ。データは1990年代に絶滅した事実を示していた。しかも最後の
一頭が消えたちょうどその頃、DNAから、ニホンカワウソは日本にしかいない固有種と判明したという。
動物園にいるのはユーラシアカワウソやコツメカワウソ。現代日本人は、日本固有種を絶滅させる、とり
かえしのつかないことをしてしまったのだ。読みながら悔しくて涙が出た。(中略)
読んで思った。希少生物の保護には、行政のためらいがあってはならない。とくに都道府県知事の決断が
重要だ。地元の知事が即断し、保護センターをつくり、専従の保護職員を置いて、人工繁殖に踏み切ら
ねば、すぐに手遅れになる。
理工系の専門書なのに、読めば読むほど、泣けてくる。ニホンカワウソの絶滅を無駄にしてはいけない。
磯田道史
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2012.08.27
驚異の寄生虫 シヘンチュウ
2012.08.27 Monday
不二農園の方にすすき野原の道を作っていただいたおかげで、牧草地からキャンプ場までの美しい景色を堪能しやすくなりました。本当に感謝しています。この美しい自然の中で今日も自然界のさまざまなドラマが展開しています。
8月23日に「共生の森」で採集したイナゴの幼虫の体内からシヘンチュウが出てきました。
よく似たハリガネムシと同じようにシヘンチュウも寄主を操る術を持っています。特に驚くのはカゲロウに寄生した場合です。シヘンチュウは水中で産卵するために寄主を何とか水辺に向かわせようとします。カゲロウの場合、メスは水辺で産卵しますので、その時にメスを操り、水中へと潜らせます。オスは水辺に向かう習性がありません。その時にシヘンチュウはどうするか。
なんと寄生したカゲロウがオスだった場合には、そのオスを性転換させてしまうというのです。
オスは姿もすっかりメスらしくなり、水辺へと飛んでいき産卵行動に入ります。そしてその時に、操られて水中へと姿を消していくのです。写真のイナゴも「共生の森」から裏の沢へと連れて行かれる運命だったのかもしれません。
今日のことば
本当の科学というものは、自然に対する純真な驚異の念から出発すべきものである。
中谷宇吉郎
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2012.08.26
青空とカンナ
2012.08.26 Sunday
夏の青い空に映える色は何と言ってもカンナの赤です。
広島では、1945年9月、爆心地から800メートルのところでカンナが花を咲かせました。
朝日新聞のカメラマンであった松本栄一が写した「焦土に咲いたカンナの花」の写真が今も残っています。
この写真に感動したことがきっかけで、いろいろな平和のための活動を始めた人たちがいます。
カンナは多くの人にとって希望の象徴としてとらえられるようになっていきました。
今日のことば
夏の夕暮れに、カナカナと物悲しく響くヒグラシの声は、耳を傾ける人の心に深く染み入る。
俳人の角川源義に忘れがたい句がある。「かなかなや少年の日は神のごとし」
幼子にとって、分け入る山野は神のごとき領域ではないか。昆虫や草花を見て生命の営みを感じ、
風に季節の移ろいを教えられる。自然の懐でこそ五感が磨かれ、生きる力も培われよう。
遊び疲れたら、木陰でヒグラシの声を聞くのもいい。小泉八雲が「名歌手揃い」と評した蝉の中
でもひときわ澄んだ音色は、行く夏の輝きを伴って記憶に残る。長じてもかけがえのない心の景色
になるだろう。
「編集手帳」(読売新聞)より
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2012.08.25
「共生の森」のナンバンギセル
2012.08.25 Saturday
「共生の森」でナンバンギセルの写真を撮りました。これまで何度か、「不二聖心のフィールド日記」
でナンバンギセルを紹介してきましたが、今回は全く紹介の意味合いが違います。ナンバンギセルは、
一般的にススキによく寄生することで知られていますが、この写真を撮った「共生の森」にはススキは
生えていません。ということは、「共生の森」のナンバンギセルをよく観察すれば、ススキ以外のどの
植物に寄生するのかが調べられるということになります。確認できたナンバンギセルはかなりの数に上
りました。今年から造り始めた「共生の森」をナンバンギセルの新しい生息地と規定することができそ
うです。荒地を切り開いたことで下草によく光があたるようになり、それが日本各地で絶滅危惧種に指
定されているナンバンギセルの成長を助けることにもつながっています。「共生の森」が希少種の保護
に役立つとしたら、こんなにうれしいことはありません。
今日のことば
われわれは個人としても、文化的、政治的存在としても、循環するサイクルの一部である。
そのことを認識し、自然の循環とこの惑星をわれわれといっしょに分かちあう、あらゆるほかの生き
ものや要素への愛情と関心を抱きながら、自分の役割を引き受け、もっともっと真剣にかつ聡明に計画
を立案しなければならない。もしそうしなければ、われわれ自身の無知と強欲と愚かさに、われわれは
結局自滅してしまうだろう。
私は信じている。日本にはこの国を世界のモデル、模範としうる、美しく活気に満ちた生態系に変える
科学技術と能力が備わっている。もう一度、この生態系を取り戻して美しい日本を再生し、世界のお手
本となろうではないか。私は自分に残された短い時間を使って、最善を尽そうと思う。
C・Wニコル
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2012.08.24
クサキリ ショウリョウバッタ エンマコオロギ
2012.08.24 Friday
NPO法人「土に還る木・森づくりの会」の皆さんに「共生の森」の整備をしていただいたおかげで、直翅目(バッタ目)の昆虫たちの生き生きと動く姿がより見やすくなりました。
今日は、その中のいくつかを特に顔の表情を中心にして紹介してみましょう。
1枚目はクサキリ、2枚目はショウリョウバッタ、3枚目はエンマコオロギです。俳人、山口青邨はコオロギの顔を見て、「こほろぎのこの一徹の貌を見よ」と俳句に詠みました。この句の「こほろぎ」はおそらくエンマコオロギでしょう。
今日のことば
自殺がどんどん低年齢層に移ってきて文部科学省あたりも、「生きる力」が大事だと言いましたね。
とんでもないことです。単に生きる力ならゴキブリに習うのが一番いいでしょう。生きる力、とだけ
言えば、相手の足を引っ張る、場合によっては相手のものを奪ったりしながら生きる、サバイバルだけ
を考えるようになってしまうでしょう。どうしてもプラトンが言っていたように「よく生きる力」が
なくてはなりません。そのためには精神の力が必要です。どうしたらよく生きられるのか、今自分が
していることはいいことなのかどうか。立ち止まって考えるという姿勢が大事なのではないでしょうか。
それについて判断のマニュアルはありませんけれど、ともかくよりよく生きようとすることが、人間に
とり大事です。
今道友信
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2012.08.23
NPO法人「土に還る木・森づくりの会」の方々による森の整備 ダイミョウセセリ
2012.08.23 Thursday
今日はNPO法人「土に還る木・森づくりの会」のメンバーの方々に、「共生の森」の整備をしていただきました。たいへんな暑さの中での長時間の労働に心から感謝申し上げます。
今年もまたダイミョウセセリの幼虫の巣を見つけました。ダイミョウセセリはヤマイモ科の植物の葉を巧みに折りたたんで巣を作ることで知られています。3枚目の写真は成虫の写真です。
生息するチョウの種類から環境の自然度をはかる調査方法がありますが、ある調査では、自然度を5段階に分け、ダイミョウセセリを2番目に自然度の高い環境に属するチョウとして分類していました。
今日のことば
ゴシュケビッチ夫妻 ―― 伊豆下田の昆虫 ――
一八五四年、日米和親条約により開港されたばかりの下田港にロシア船ディアナ号が来航し、停泊中に津波に遭い、大破した船を修理のために戸田港へ回航する途中で沈没してしまった話はあまりにも有名である。
これに乗船していた中国語通訳のロシア人ゴシュケビッチは翌年の春まで、下田に滞在を余儀なくされた。この時に下田近辺で採集したたくさんの昆虫標本はセントペテルブルグの王立科学アカデミー博物館に寄贈され、昆虫学者モチュルスキーやメネトリーによって研究、記載された。
静岡県の昆虫研究の幕開けは、約百五十年前の下田港の開港とともに来日外国人によって始まったといえる。その後、伊豆天城山などの昆虫類が日本人学者の手で記載されるが、昆虫相が詳しく解明されるのは静岡昆虫同好会の設立(一九五三年)以降となる。
ゴシュケビッチによって下田で採集され、新種として記載されたものに、シロチョウ科のスジグロロチョウ、カミキリムシ科のノコギリカミキリやヒメスギカミキリなどがある。
また、ジャノメチョウ科のサトキマダラヒカゲ(里黄斑日陰、学名Neope goschkevitschii)のように種名に彼の名が付けられたり、セセリチョウ科のダイミョウセセリ(学名Daimio tethys)のように属名に「大名」と付けられたりしている。河原や海岸の砂地に生息するエリザハンミョウ(学名Cylindera elisae)はゴシュケビッチ夫人エリザの名が付けられている。
このように生物の学名にはよく人の名が付いたものがある。その標本を採集した人や関連する研究者に敬意を表して献名されたものである。
モチュルスキーは異国から送られてくる多数の珍しい昆虫に驚喜し、それらを採集したエリザ夫人の功績を讃えて命名したのであろう。
その後、一八五七年にロシア領事として再来日したゴシュケビッチ夫妻は盛んに昆虫を採集したと言われている。
枝恵太郎
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2012.08.22
東名の橋から見える箱根山 アキカラマツ
2012.08.22 Wednesday
聖心橋から見える箱根の山の稜線を雲が覆っていました。これが学校の中からの風景で あることに改めて驚きます。
アキカラマツが裏の雑木林の道に咲いています。アキカラマツは薬草です。信州の高遠藩では高遠草と呼ばれて健胃薬として用いられていました。高遠の石工は全国を旅して数多くの石仏を各地に残しました。裾野市の仙年寺にも地蔵尊が安置されています。全国を旅する高遠石工の荷物の中にも高遠草から作られた胃薬が入っていたかもしれません。
今日のことば
色鮮やかな大きな花だけが美しいのではない。ルーペを生かせば、どんなにありふれた小さな花でも同じように美しく、そして驚きに満ちていることがわかってくる。私たちの心を楽しませるものは、足もとにいくらでもあって、あえて遠い山野に求めないでもすむ。
長田武正
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