フィールド日記
2013.12.04
秋の「ははそ」の黄葉
「紅葉」を古くはよく「黄葉」と書きました。野の樹木のかなりの割合を占めるブナ科の落葉樹は秋になると赤ではなく黄色に葉が変色したからです。クヌギやコナラなどのブナ科の落葉樹は「ははそ(柞)」と呼ばれて広く上代の人々に親しまれ、その深い関わりは「ははそはの(柞葉の)」という枕詞が生まれることにもつながりました。不二聖心の雑木林もまさに「黄葉」の季節を迎えています。
今日のことば
子に告げぬ哀しみもあらむを柞葉の母清やかに老い給ひけり 皇后陛下御歌
2013.12.02
ニホンザル 今朝の富士山
坂道の途中でまたサルに出くわしました。
聖心橋の金網の外側をサルは悠々と歩いていきます。東名高速を走っている車に乗る人たちはこんな近くにサルがいるとは夢にも思わないことでしょう。
富士山も実にきれいでした。雪が降ってからますます宝永火口がくっくり見えるようになりました。宝永の大噴火が私たちに伝えるメッセージを時折、思い起こしたいものです。
今日のことば
平成二十四年八月十七日の岳麓新聞に「御殿場市 富士山文化遺産向け パンフなどを制作」という記事が載りました。続く十八日には「富士山の生物特別展を開催 裾野市」という記事が載り、そこには「富士山世界文化遺産登録に向けた動きが加速する中で、市民に富士山や山麓に広がる自然への理解を深めてもらうことが狙い。」とありました。これらの記事を読むと世界遺産の登録に向けて機運が高まりつつあることを感じます。このような流れの中にあって、みくりやに住む皆さんにぜひ思い出してほしい本があります。それは新田次郎の『怒る富士』です。文春文庫の裏表紙には、この作品のあらすじが次のように書かれています。「富士山噴火によって被害を受けた農民を救うべく奮闘する関東郡代伊奈忠順。だが幕府内の政争の前に、彼の努力もむなしく、農民達は次々に飢えていく。ついに忠順は決心する。たとえこの身がどうなろうと幕府米五千俵を秘かに農民に与えようと。」ここにあるように、物語の主人公は伊奈忠順で、その無私の精神は読む者に魂を揺さぶる感動を与えます。しかし、この物語の主人公は一人ではありません。この本は、宝永の大噴火が駿東郡五十九カ村の民にどれだけの言語に絶する苦難を与えたかを生々しく教えてくれます。その苦難と闘った駿東郡五十九カ村の民こそがこの物語のもう一方の主人公です。
被災して以来、被災地から幕府へと毎年出されていた救済の嘆願文書が正徳三年から五年までの三年間、皆無となります。これは大きな歴史の謎です。その理由についての新田次郎の推論をぜひ本書を読んで確かめてください。三百年の昔の、みくりやの民に対する尊崇の念が湧きあがらずにはいられないと思います。
富士山の世界遺産としての価値を論ずる視点はさまざまですが、そこに「人間の限界を超えた苦難を乗り越えた人々の歴史に深く関わる山」という視点を含めることを忘れてはならないと強く思います。 蒔苗博道
2013.12.01
クコの実とクコハフクレフシ(虫えい)
駐車場の奥にあるクコはなかなか実をつけませんでしたが、今年ようやく結実を確認することができました。
葉には虫こぶ(クコハフクレフシ)もできていました。
虫こぶを拡大すると細かい粒子のようなものを見ることができます。
今日のことば
「オレが今マリオなんだよ」島に来て子はゲーム機に触れなくなりぬ 俵万智
2013.11.29
ツチグリ
5年連続で不二聖心では春先に発生を確認してきたツチグリを今日、校舎の裏で見つけました。発生時期が変わったことは、何らかの気象現象の変化を示唆しているのかもしれません。
ツチグリの学名のAstraeus hygrometricsは「星形の湿度計」という意味です。外皮が裂けて開いた状態がまさに星形をしているのが、写真からもわかります。
今日のことば
神を信じる者は、あの救いの時のことを忘れない。
井口貴志
2013.11.27
イロハモミジの紅葉 ヒヨドリ
1枚目の写真は昨日の朝、中学のクロークルームの近くで撮った写真です。窓にイロハモミジの葉が何枚もはりつき、週末の嵐のすさまじさを物語っていました。
不二聖心は紅葉の盛りを迎えています。2枚目の写真は中3の教室から見える紅葉の写真です。
3枚目の写真はヒヨドリの夫婦の写真です。紅葉の美しい静かな朝にヒヨドリの声だけが響き渡っていました。
今日のことば
日本でも、アメリカのあとを追いかけ、模倣してきた効率化の波によって、「一つのことを大事に集中してする」という概念がないがしろにされるのが心配だ。ティックナッハトンという僧の言葉「歩くときは歩くことに、みかんの皮をむくときはそのことに集中しよう」を思い出したりする。
海原純子
2013.11.25
クマツヅラ科の植物 ランタナ・クサギ
正門にランタナの花が咲いています。
しばらく坂を上るとクサギの実が見られます。
ランタナとクサギは全く違う姿の植物ですが、これらは両方ともクマツヅラ科に属しています。
クマツヅラ科の特徴の特徴は以下の通りです。
1葉は対生、または輪生し、托葉はない。
2花はふつう両性で、がくは合着して宿存する。
3花冠は合弁で、雄しべは花冠の筒の内部に着生し、雌しべは2心皮性。
4子房は上位、子房の室数は一般に4室だが、シソ科のような完全な分果をつくらない。
5花柱は頂生する。
分類学を学ぶと、うわべだけでなく物をしっかり見つめる目が養われます。
今日のことば
危機的状況にあっても、人間は考え抜くことで強くなる。 ハンナ・アーレント
2013.11.24
イソギク
正門のイソギクが咲き始めました。この花を見るとしみじみと冬の訪れを感じます。
イソギクは、本来は海岸に生える植物です。この花の祖先であるイワインチンやオオイワインチンは高山でしか見ることができません。なぜ海岸の植物の祖先が高山に生えているのでしょうか。それは、氷期に生息域を海岸まで広げたイワインチンやオオイワインチンが氷期の終わりとともに高山へと後退し、その時に取り残されたものがイソギクへと種分化したからです。不二聖心の正門に咲く可憐な花は地球の歴史の語り部でもあるのです。
今日のことば
日常をきらきらさせてほしい。
そういうことができたら、私の役目が果たせているかな。
当たり前のいつもの出来事が特別に見える魔法を、私の歌でかけられたら。
松任谷由美
2013.11.22
サルとヤブムラサキ
ここのところ校内でサルを見かける回数が増えているように思います。今朝は聖心橋のところで3頭見かけました。
2枚目の写真は、サルが食べていた枝葉の写真です。確認してみたところ、サルが食べていたのはヤブムラサキでした。サルが好む植物の中にヤブムラサキが含まれていることを初めて知りました。不二聖心のフィールドはヤブムラサキの宝庫ですので、サルにとっては願ってもない環境なのかもしれません。
今日のことば
ここ一番良い演奏ができたからこれで悔いなし私の青春
葱刻み浮かべた水面(みなも)温かく家族思わず笑顔ほころぶ
星の影淡く冷たい冬の夜白い吐息は空にとけゆく
2013.11.20
アカネの実
裏道の草地でアカネの実がなっているのを見つけました。アカネは根が赤いのでアカネ(赤根)といい、根に含まれているアリザリンを利用して上代から染料が作られてきました。「茜(あかね)」は紫にかかる枕詞にも用いられていますが、美しい実を見ていると根だけではなく実も枕詞の由来に関係しているのではと思えてきます。
今日のことば
あかねさす紫野行き標野行き野守は見ずや君が袖振る 額田王
2013.11.18
タマアジサイ
裏道の沢のタマアジサイの写真を撮りました。北駿ではタマアジサイのことをサーフサギと呼ぶことがあります。これは「沢塞ぎ」の意味で、タマアジサイが沢をふさぐようにして生えることが多いことを表しています。不二聖心でもまさに沢の中にタマアジサイが自生しており、タマアジサイの特徴をよく理解することができます。
今日のことば
読書をしているあいだ、わたしたちはそこにいながら、どこにもいない。
言葉が拓く地平に放たれて、歩き、立ち止まり、走り出し、また歩く。
有限のページの間に無限の空間が覗いている。
港千尋











