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フィールド日記

2017.10.29

10月の不二聖心の野鳥の調査

 日本野鳥の会東富士副代表の滝道雄先生が10月の不二聖心の野鳥の調査を10月25日にしてくださいました。調査結果は以下の通りです。

10月度調査結果
 1.ヒヨドリ         53羽
 2.ヤマガラ         10羽
 3.メジロ           15羽
 4.ホオジロ           3羽
 5.ハシブトガラス       20羽
 6.アオゲラ                      2羽
 7.イカル           1羽
 8.ハシボソガラス        3羽
 9.キジバト          5羽
10.モズ            3羽
11.カケス           6羽
12.コシアカツバメ        2羽
13.ウグイス                          1羽
14.アマツバメ                       1羽
15.トビ                               4羽
16. シジュウカラ                   7羽
17.エナガ           18羽
18.スズメ                             9羽
19.キセキレイ                       1羽
20.ノスリ           1羽
21.ソウシチョウ        5羽
22.ガビチョウ         3羽
【特記事項】
1.コシアカツバメを初めて確認した。
   2014年の調査開始時に、コシアカツバメが確認出来ると
   推測していたが、今日まで確認する事が出来なかった。
   コシアカツバメは裾野市内の商業施設でも営巣しているが
   今日確認した2個体は裾野よりかなり北で繁殖をした個体
   と思われる。
2.コシアカツバメと同時にアマツバメ1個体を確認した。
   両種ともに裾野市を通過するには時期的に遅い。
   通常は8月末~9月末に通過する個体が多い。
以上が滝先生からの調査報告です。8月は12種類、9月は14種類、10月は22種類と冬に向けて種類数が増えてきています。
次の画像は調査日前日に撮影した八重のサザンカの写真です。鳥も植物も季節に合わせて、少しずつ姿を変えて行きます。
今日のことば
昨日の新聞から407 平成二十九年九月四日(月)
『夏の祈りは』(須賀しのぶ・新潮文庫)を読む
―― 本書の真ん中にあるのは、野球というスポーツへの深い愛だ。 ――
  
新潮社のPR冊子『波』の八月号に新潮文庫の新刊『夏の祈りは』の書評(吉田伸子「野球を愛するすべての人々へ」)が載りました。その一部を引用します。

本書は、埼玉県の公立高校である北園高校の野球部を舞台にした連作小説集だ。第一話の「敗れた君に届いたもの」(昭和63年)から、最終話「悲願」(平成29年)まで、いわば、北園高校野球部クロニクル(年代史)が描かれているのだが、本書の美点は、勝者のドラマではなく、勝利に至るまでのドラマが描かれていることだ。
 昭和33年、埼玉大会での準優勝がこれまでの部の最高到達点である北園高校は、野球部にとってはもちろん、野球部OBにとっても、埼玉大会優勝=甲子園出場が、文字通り「悲願」だった。その悲願達成に最も近いと目されていた世代が、昭和63年、香山始キャプテンの代だった。順調に勝ち進んで迎えた準決勝は、同じく公立校である溝口高校。誰しもが北園の勝利を疑わなかったのだが……。
 この第一話で登場したキャプテンの香山が、北園の野球部監督として再び登場する第四話「ハズレ」、第五話「悲願」まで、北園高校野球部の年代史的な流れを追いつつも、本書の真ん中にあるのは、野球というスポーツへの深い愛だ。
 悲願、悲願と口煩く言われ続け、そのことを重荷に思っていた香山が、悲願の意味を身体で実感する、その瞬間。個性の異なる二人のエースとバッテリーを組むキャッチャー大畑の苦悩と成長。男子マネージャーとはまた違う苦労を背負う女子マネと、恵まれた身体を持ちながら、プレーヤーとしての資質に悩む内野手。そして、県大会のベスト4まで勝ち抜いた三年と、その三年よりさらに可能性のある、甲子園を狙えるとされている精鋭揃いの一年に挟まれ、「ハズレ」と陰で揶揄される二年。その二年のキャプテン巽が、「ハズレ」という言葉に一番囚われていたのが自分だったと思い知る時。
 野球に魅了され、野球に打ち込む彼ら、それぞれの悩みを描きつつも、そんな彼らだからこそ、野球を通じて成長している点が、本当に素晴らしい。勝つことは目標だけども、目的ではない。第一話に込められたそのメッセージが、本書を貫いているからこそ、第四話とそれに連なる第五話で、香山が監督になって率いるチーム――「ハズレ」世代と呼ばれ、期待されていなかったチーム――が、初心にかえって、野球を楽しむことで勝利を手にしていくその様が、ことさらに熱く胸を打つ。
 香山はもちろんだが、第二話に登場する二人のエースがOBとして再登場したり、第三話で自らの資質に悩んでいた内野手が、後年トレーナーとして北園野球部にとって大事な存在になっていたり、と連作という構成を生かした展開も読ませる。野球を愛する全ての人への、熱いエールのような一冊だ。

 ここでは、この書評の中の「男子マネージャーとはまた違う苦労を背負う女子マネと、恵まれた身体を持ちながら、プレーヤーとしての資質に悩む内野手。」という一節に関係する第三話「マネージャー」を紹介します。三年生の女子マネージャー伊倉美音(いくらみお)は、一年生のマネージャーの平野が仕事のたいへんさに音を上げそうになる様子を見ながら、かつて自分の同級生もマネージャーをやめていったことを思い出します。そのあたりから引用してみましょう。

 伝統校である北園高校野球部の女子マネージャーは、狭き門だ。
 公立の中では強豪として名高い北園の野球部に憧れる者は少なくないが、入部条件が厳しく、またそれを突破してもあまりの苛酷さに途中で挫折する者が多い。
 美音(みお)が一昨年入部した時は、同じ学年にもうひとりマネージャーがいたが、まさに去年のこの時期に退部してしまった。夏以降、疲れて授業も寝てしまい、成績が下がる一方だとぼやいていたが、二学期の期末試験でとうとう赤点をとってしまったためだった。
 文武両道を標榜する北園野球部では、赤点をとれば退部と決まっている。「一人にしてごめんね」と言いながら去っていった彼女は、今年は無事成績が平均に戻ったらしい。
 平野が入ってくるまでの三ヶ月間、美音はひとりだった。誇張ではなく地獄のような日々だったので、あれをまた経験すると思うとぞっとするが、自分のために後輩を引き留めるようなことはしたくない。
 美音が思いにふけっていると、そこに一年生の相馬という選手が突然現れます。
「伊倉先輩!」
 背後で、やたら元気のいい声がした。
 野球部員の声は総じて大きいが、これはとびきりだ。空気が振動して、うなじのあたりがちりちりする。
 振り向くと、果たして声にふさわしい体格の部員が小走りで近づいてくるところだった。
「お疲れっす! 寒いっすね!」
 ホームベース型の顔に明るい笑みを浮かべているのは、一年生の相馬蓮だ。
 なかなかの逸材揃いらしい一年生の中でも、彼はひときわ目立つ。入学時にすでに一八〇を超えていた長身は、この一年でずいぶん厚みを増した。そばに立たれるだけで圧迫感がある。とくに腰回りと太もものあたりは一回りほど太くなり、ゆとりがあったはずの練習着がきつそうだ。
「寒いね。どうしたの?」
「米研ぎ手伝いに来ました!」
「……グラウンド整備は?」
「一年多いし、全員でやっても余るんで。それより、米の量ハンパないし分担したほうが早くないすか」
 相馬の目が、まだ研がれていない米の山に向けられる。四十六名ぶんの米を研ぐとなると、大きいボウルを使っても一回や二回では終わらない。
「ありがとう。気持ちは嬉しいけど、大丈夫。早く練習に行きなよ」
「美音センパイ、マッソー怪我して練習できないんですよ」
 平野が小声で言った。もっとも相馬はすぐ近くにいるので、声をひそめる意味は全くない。
「前から思ってたんだけど、なんでマッソーなの」
「相馬を逆にしただけっす。平野の言う通り、股関節やばいんで。今あんまり動けないんす」
「でも怪我人用のメニュー、大沼さんが組んでるでしょ。そっちやりなよ、ここはいいから」
「それはもちろんやります、でも手伝ってからでも遅くないんで」
「いいって。早く戻りな」
 若干苛立ちを含ませた声に、相馬は一瞬、表情を固くした。が、すぐにいつもの笑顔に戻ると「わかりました! いつもありがとうございます!」と冬空に突き刺さるような大声で言って、小走りで去って行った。たしかに走り方が少し不自然だった。
(中略)
 大所帯ゆえ、スタメン争いは熾烈だ。まして相馬は一年生。北園では、どんなに突出した能力をもつ一年生でも、入学間もない春の公式戦はベンチ入りさせないが、相馬は週末や連休の練習試合でAチームとBチームのダブルヘッダーを連日こなしていた。残念ながら結果は出ず、打たないどころか守備でもエラーが目立つようになっていき、よく特守(守備特訓)で遅くまで残っているところを見たが、今となってはあの調子の悪さも納得できる。
「まあ、悪化しちゃったのはしょうがないし。今はよけいなことを考えないで、体のケアに専念してほしいんだよね。春からは絶対にベンチ入りしてもらわないと困るんだからさ。多々良(キャプテン)たち最後の夏になるし、そこに照準合わせてると思うよ」
 気を引き立たせるように多々良の名を出すと、平野はわかりやすく頬を紅潮させた。
「ですね! 久瀬中の時、多々良センパイとマッソーで三遊間でクリンナップだったんですよね。絶対うちでも見たいです」
「へえ、よく知ってるね」
「そりゃあもう。あたし多々良センパイマニアですから。てかライバル多いし」
「多々良、一年生に人気あるって聞いたけどほんとなんだ。あ、わかってると思うけど部内恋愛は厳禁だからね」
 冗談めかして言うと、途端に平野が飛びあがった。
「やだもうわかってますって! そういうんじゃないですから! 労働の中のささやかな楽しみっていうかサプリ的なアレですから! 心から多々良センパイたちの活躍を願ってるだけっていうか!」
 動揺すると手足をばたつかせる癖がある平野は、今や謎のダンスを踊っているようにしか見えなかった。ひとしきり派手に照れてら、平野は「あたしマッソーとクラス一緒だし、しっかり監視しときますね!」と気合いをこめて宣言した。

 このすぐあとに懲りずに相馬がまた現れるのです。実は、相馬が女子マネージャーのところにやってくるのには、「ある理由」がありました。その「ある理由」は、将来を嘱望されて入部した相馬とは、どう考えても結びつきにくい理由でした。その理由が明らかになって相馬の選手生活は大きく変わり、彼は自分の選んだ道を歩み始めます。そして連作の最後、第五話「悲願」で彼はとても大切な役割を担って再登場することになります。
 高校野球を描いた小説で、これほど面白い小説をこれまでに読んだ記憶がありません。この作品は「野球を愛する全ての人への、熱いエールのような一冊」ですし、野球をよく知らない人も野球好きにしてしまう魅力を持った作品だと思います。