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フィールド日記

2013.07.19

アオダイショウ  アサギマダラ  クロシデムシ

    2013.07.19  Friday

   早朝に「共生の森」の近くの竹林の縁でアオダイショウに出会いました。不二聖心に は4種類のヘビが生息していることが確認されていますが、アオダイショウはその中では最も性格の大人しいヘビです。長い体でゆっくりと移動する姿を時々目にすることがあります。


 

今日のことば

昨日の新聞から 109 平成19年10月15日(月)
 

 『森の「いろいろ事情がありまして」』(ピッキオ 信濃毎日新聞社)を読む
―― 改めて知る不二の自然のすばらしさ ――
10月5日(金)は僕にとって忘れることのできない日となりました。渡りをする蝶として知られるアサギマダラの撮影に不二聖心の雑木林で初めて成功したのです。そんな僕にとって、10月11日に西日本新聞に載った次の記事は注目に値するものでした。

 福島からはるばる1000キロ 宮崎でチョウ捕獲

宮崎県都城市の中学1年、山元集成君(13)が同市内で、福島県から約1000キロの長距離を飛来してきたアサギマダラを捕まえた。
アサギマダラは日本から中国大陸にかけて広く分布。ただし移動実態には謎が多く、羽に捕獲日や場所のマークを付けて放し情報交換する取り組みがチョウ愛好家の間で続けられている。山元君が見つけたのもその1匹で6日、市内の林道にいた。羽に福島県北塩原村の小学5年男児によるマークがあり、48日がかりで飛んできたことが分かった。
山元君は、昨年も雌雄の特徴を併せ持つ珍しいカラスアゲハを発見したばかりで「ますますチョウにのめりこみそう」と、空飛ぶような気持ちで喜んでいる。

 アサギマダラが千キロの渡りをすることは前から知っていましたが、この記事はそれが紛れもない事実であることを教えてくれました。不二聖心から南へ千キロということになると、僕が撮影したアサギマダラもまた、沖縄近くまで飛んでいくのかもしれない。そう思うだけで、心が遥かなものに向かって解き放たれていくような感動を覚えます。
でも、アサギマダラの特徴は、千キロの渡りだけにあるわけではありません。ピッキオ(長野県軽井沢町を拠点として野生動植物の調査研究を行うグループ)の方々が著した『森の「いろいろ事情がありまして」』(信濃毎日新聞社)という本には、アサギマダラについて他にも興味深い事実が記されています。アサギマダラの写真に添えられた文章の全文を引用してみましょう。

 冒険家アサギマダラ夏空を翔く  (第二十二話)

 濃紺の空と輝く白雲が、私たちを登山道へいざなう初夏。浅間山麓の林のふちや草原は多くの花々に彩られます。野道で目立つ、大柄で美しいチョウ。こんな色模様で敵にすぐ見つからないのでしょうか。
マダラチョウの仲間の多くは、幼虫時代に強力な有毒成分を含む、つる植物の仲間の葉を食べて育ちます。幼虫はその毒にあたらないばかりか、生涯それを持ち続け、それを武器として身を守るといいます。チョウを食べた敵が毒にあたって後悔する前に、「私の体は毒でいっぱいよ」とあらかじめ警告しているのが、この派手なまだら模様なのです。
チョウが恐れる鳥などの天敵は、苦い経験を積むことでこの模様を覚え、次から「食い意地」を控えるようになります。不運な犠牲者たちのおかげで、派手な「警告色」は身を守る手段として有効になっていきました。他の多くの虫たちも同じように進化し、さまざまな警告模様をつけるようになりました。天敵が「あの虫はけばけばしくてどうもまずそうだ。もしかしたら舌がしびれてしまうかも…」と敬遠してくれると、彼らは安心して生活ができるわけです。
アサギマダラは自分の毒を誇示するように、森の上をゆっくりと羽ばたき、時折すーっと滑空して優雅に舞います。
空高くまで昇るアサギマダラ。彼らは、やがて気流に乗って長距離の移動をする旅行家でもあります。各地の愛好家が羽にマークをつけて調べた結果、秋に本州から南西諸島まで千数百キロも南下するものが多数いました。長旅の途中でも産卵を繰り返し、暖地で冬を越した幼虫は春に羽化して北への旅路を開始します。
北上の途中でも産卵し、たどりついた北国や高原でも子を残し、新しいチョウがまた秋に日本列島を南下していくのだと考えられています。彼らのロマンスは旅の途中でも生まれているということでしょうか。
アサギマダラのオスはお尻の先からヘアペンシルと呼ばれるブラシを出して、これに羽から出る良い香りをつけ。デートの準備をして待っています。メスが来るともつれるように飛び回り、とっておきのヘアペンシルを出して舞い上がります。するとメスはこの匂いに惹きつけられてオスを追い、めでたく結婚。翌日から卵を産み始めます。この次世代の担い手たちは、文字どおり『冒険家の卵』なのです。

 この文章が載っている『森の「いろいろ事情がありまして」』という本は、軽井沢の野鳥の森にまつわる話が全部で五十話収められて、一冊の本になっています。一話の中に収められている文章の長さは、だいたいここに引用したのと同じぐらいの長さで、それぞれの話には必ず数枚の写真が添えられています。この文章には、ヒヨドリバナという花にとまるアサギマダラの写真が添えられていました。アサギマダラは、ヒヨドリバナという花を特に好むと言われます。不二聖心にもヒヨドリバナがたくさん咲いていることが、アサギマダラがやってきた理由の一つかもしれません。

 さて、五十話の中には、他にも興味深い話がたくさんあります。そこから得られる貴重な知識は、改めて不二聖心の自然を見直すきっかけをいくつも与えてくれました。ここではもう一つ、第二十六話を引用してみます。

 森の掃除屋さん1  動物たちの一生、そのあとは? (第二十六話)

 自然界では、小さいものから大きいものまで、毎日たくさんの動物たちがその寿命を終えています。役目を終えた命は、どのように土に還るのでしょうか。
シデムシという昆虫をご存知ですか? 漢字では「埋葬虫」と書きますが、あの世へ行くことを「死出」といいますから、それが名の由来でしょうか。
動物の死臭がすると、どこからともなく飛んできて、その肉を食べる虫、いわば森の葬儀屋さんなのです。中には動物の遺体の下に穴を掘って土で埋め、まさに埋葬してから、ゆっくり料理をするモンシデムシの仲間などもいます。彼らはそこで卵を産み、かえった幼虫たちに口移しで肉を分け与えるという社会のしくみを持つこともわかってきています。
豊かな森であれば、比較的大きな動物たちのお葬式もしばしばあり、多くの種類のシデムシ、特に大型の種類がいるはず。すんでいるシデムシの種類を調べることで、ある程度の環境の豊かさを知ることができます。
私たちは、野鳥の森とその周辺の林、そして中軽井沢の市街地に近い雑木林で、シデムシの種類を調べました。紙コップに腐肉を入れて地面すれすれに埋め、翌日、中に落ちている虫を回収した結果が図(ここでは省略)です。
中軽井沢では、オオヒラタシデムシという種類が圧倒的でした。この虫は環境の悪化に強く、瀕死のミミズを食べたりしながら市街地にもふつうにすむことのできる種類です。
一方、野鳥の森周辺では、合計4種類が確認されました。中でも、クロシデムシという日本最大の種類が捕獲されたことは、私たちをほっとさせました。大型の掃除屋さんを養うことのできる豊かな森だということがわかったのですから。シデムシが食べたものは糞となり、その糞はもっと小さな虫や微生物、ミミズなどに食べられます。それらの糞は、もう栄養豊かな細かい土で、植物の生育のために役立ちます。彼らはまさに森の掃除屋さんで、完全なリサイクルシステムを作り上げているのです。
このように、森の中でも人知れず掃除屋さんが働いていますが、そもそも動物の死体というのは、汚いゴミなのでしょうか。心ない人の捨てる空き缶やビニールなどは、動物の体と違って食べられたり腐ったりする(細菌によって分解される)ことがなく、生き物たちが誰も片付けてくれないということにほかなりません。そういうものこそ、森のどこかでずっとなくならずに存在し続ける、つまり森が受け入れようとしない、正真正銘のゴミなのです。

 今年の夏、ピッキオと同じように、紙コップを使ったシデムシの生息状況の調査を不二聖心でも実施してみました。なんとその結果、軽井沢の野鳥の森と同じように、クロシデムシが二個体、採集できたのです。不二聖心の自然は、軽井沢の野鳥の森にも負けない豊かさを持っていることがわかりました。
みなさんも、『森の「いろいろ事情がありまして」』を読んで、改めて不二の自然を見直してみてはどうでしょうか。

 

不二聖心の雑木林で撮影したアサギマダラの写真


不二聖心の雑木林で撮影したクロシデムシの写真