フィールド日記
2013年05月
2013.05.08
エノキハトガリタマフシ 外来特定生物の鳥の鳴き声
2013.05.08 Wednesday
東名高速沿いの道でエノキハトガリタマフシの写真を撮りました。 エノキトガリタマバエが形成する虫こぶです。
特定外来生物に指定されている鳥の声を録音しました。専門家の方の分析ではソウシチョウかガビチョウの声であることは間違いないそうです。おそらくソウシチョウであろうと教えていただきました。この鳥の声を覚えておけば、特定外来生物の侵出具合をはかることができます。ソウシチョウもガビチョウも、人間によって日本に連れてこられ、今は悪者扱いを受けている気の毒な鳥たちです。
今日のことば
私がこの世で最も深く信じていること、私にとって他のいかなる観念よりも神聖な観念は、統一という観念である。すなわち、世界全体は神聖な統一であり、いっさいの苦悩、いっさいの悪の根は、私たちのひとりひとりが自分を全体の解き離しがたい部分だと感じなくなり、自我をあまりに重大にとりすぎることにあるという観念である。
ヘルマン・ヘッセ
お知らせ
今年も8月に小学4年生から6年生を対象として「夏休み子供自然体験教室」を不二聖心女子学院で開催します。申し込み方法など詳しいことをお知りになりたい方は下記のURLをクリックしてください。
http://www.fujiseishin-jh.ed.jp/modules/bulletin/index.php?page=article&storyid=297
2013.05.07
マルバウツギとツュンベリー
2013.05.07 Tuesday
裏道の沢の近くにマルバウツギが咲いています。マルバウツギは、卯月に咲くことから卯の花と名付けられた植物の一種です。ウツギとよく似ていますが、葉の形で識別することができます。リンネの弟子で1775年に長崎の商館医として来日したツュンベリーは箱根の植物を多数、採集調査しスウェーデンに持ち帰りました。その中にはウツギの仲間も多数、含まれていましたが、マルバウツギと名前の付けられた標本にはマルバウツギとウツギの両方が含まれていました。分類学の祖、リンネのお弟子さんもウツギの識別には苦労をしたようです。
今日のことば
卯の花のにおう垣根に
ほととぎす早も来啼きて
忍音もらす夏は来ぬ
文部省唱歌「夏は来ぬ」より
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2013.05.06
アリノスアブの不思議な生態
2013.05.06 Monday
「共生の森」の隣の栗畑でアリノスアブを見つけました。アリノスアブの幼虫は蟻の巣の中にいる幼虫を食べて育ちます。アリノスアブにもアリにもたくさんの種類がありますが、どのアリノスアブもそれぞれ特定の種類のアリの幼虫しか食べないようです。多くの種類の中からどのようにして1対1の関係が生まれていったのか、不思議でたまりません。写真のメスもこのあと特定の種類のアリの巣へと向かうことを考えているはずです。そのアリの巣の在り処をどのようにして認識するのでしょうか。これもまた不思議でたまりません。
今日のことば
うかうかと八〇歳を過ぎたが、この歳になってますます、樹木というものの不思議さを思う。毎年毎年、春になると裸木に花をつけ若芽を出す。とくに、歳によって早い遅いはあっても、まるで人間との約束を果たすように、時が来れば花を開くのが不思議だ。人間と違って、けっして期待を裏切ることがない。
季節が来れば花が咲くのは当たり前だ、などとおっしゃらないでいだきたい。実に律儀なものだとお思いになりませんか。
渡辺京二
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2013.05.05
オニシバリと鎌井松石と水谷豊文
2013.05.05 Sunday
林道でオニシバリの実の写真を撮りました。校舎周辺ではなかなかお目にかかることのできないオニシバリですが、林道に入るとたくさん目にすることができます。
幕末の三重で活躍した植物学者に鎌井松石という人物がおり、多数の植物画を残しています。オニシバリについても巧みな写生画を残していますが、そこに「鈴鹿三重の深山幽谷陰湿の地に多生」という言葉を添えています。やはり昔からオニシバリは人間の生活の場から少し離れたところに自生する植物であったようです。
ところで、先ほど引用した言葉にはまだ続きがあって、さらに「夏月落葉する故にナツボウズと呼ぶ。又ハナテウジと云ふ」と記されています。オニシバリの別名としてナツボウズはよく知られていますが、ハナテウジ(花丁子)はあまり目にすることはありません。しかし、一つだけハナテウジが大きく取り上げられている書物があります。それは『物品識名』という幕末の尾張の植物学者水谷豊文が編集した書物です。水谷豊文は伊藤圭介の植物学の師匠で、鎌井松石は伊藤圭介に私淑しています。つまり、伊藤圭介との師弟関係が縁で、鎌井松石が『物品識名』に目を通していた可能性は十分にあるわけです。オニシバリの別名を調べていると、名古屋を中心とした東海地方の植物学の伝統と歴史に思いをはせることができます。それにしても時代を代表する植物学者が重んじた「ハナテウジ」という名前はいったいいつどこへ消えていってしまったのでしょうか。
オニシバリは埼玉県と奈良県で絶滅危惧Ⅰ類に、徳島県と高知県で絶滅危惧Ⅱ類に、宮城県と京都府と広島県で準絶滅危惧種に指定されています。
今日のことば
We need to remember the wounds, never turn our gaze away from the pain, and—honestly, conscientiously, quietly—accumulate our own histories. It may take time, but time is our ally.
For me, it’s through running, running every single day, that I grieve for those whose lives were lost and for those who were injured on Boylston Street. This is the only personal message I can send them. I know it’s not much, but I hope that my voice gets through. I hope, too, that the Boston Marathon will recover from its wounds, and that those twenty-six miles will again seem beautiful, natural, free.
村上春樹
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2013.05.04
モリアオガエルの産卵時期から考える気候変動の可能性
2013.05.04 Saturday
5月2日に行われたオリエンテーリングのポストを撤去している時にモリアオガエルの卵を見つけました。5月2日までには既に産卵がなされていたことが確認できたことになります。毎年、モリアオガエルの卵を初めて見た日を記録するように心がけているのですが、平成23年5月24日のフィールド日記には次のように書きました。
今朝7時に築山の池の縁に生えているシダレザクラの枝にモリアオガエルの卵を見つけました。築山の池での今年最初の産卵ということになります。5月23日の正午の時点ではまだ確認できていませんでしたので、5月23日の正午以降から5月24日の朝までの間に卵が産み付けられたということになります。モリアオガエルの産卵行動は、環境の変化や気候変動の影響を受けます。このようにして、その年の最初の産卵の日時を何年にもわたって記録し続ければ、そこから環境の変化を知ることができるかもしれません。
5月23日と5月2日では産卵時期が大きく異なります。気候変動と関連があるかどうかを判断するにはさらなる知見の蓄積が求められますが、注意すべきデータの一つであることは間違いないと思います。
2枚目のモリアオガエルが産卵している写真は2009年5月31日に撮影したものです。この年は5月末まで産卵行動が続いていたことがわかります。
今日のことば
私たちが春最初にフィールドに出る日付は、ここのところ徐々に早まっている。七、八年前には最初に出かけるのが五月半ば過ぎだったが、昨年は連休中に北海道の自生地に行くようになった。
私たちが感じている春の早まりは、単なる短期的変動かも知れない。しかし、一〇〇年余にもわたって継続的に集められた生物季節のデータに明瞭なトレンドが認められるとすれば、それは地球温暖化にともなう生物季節の変化といえるであろう。
例えば、春に渡り鳥が初めてニューヨークに姿を見せる日については、一九〇三年からの記録がある。それによれば、夏鳥七六種のうちの半数を超える三九種では、九〇年ほどの間に春の初見日がたしかに早まってきているという。残りの三五種には変化が認められず、遅くなったのはわずか二種のみである。一方、気象衛星による反射光でとらえた植生の季節変化の観測によれば、北半球では一九八〇年以来、春に植物の葉が開くのは八日も早まっている。
このような春の早まりは、いずれも地球温暖化の影響と解釈されている。
鷲谷いづみ
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2013.05.03
全国47都道府県で希少種に指定 エビネ
2013.05.03 Friday
5月2日に行われたオリエンテーリングのポストを回収している時にエビネの自生地を何か所か確認しました。1970年代以降、栽培目的の採取によって急激に数を減らしたエビネは今では全国47都道府県で絶滅危惧種に指定される希少種となってしまいました。このエビネについて2008年に「日本産ラン科希少植物エビネ及びキエビネにおけるウイルス発生状況」という非常に興味深い論文が発表されています。エビネの大敵はウイルス病であると言われますが、この論文は、自生地に生えていたエビネを栽培環境下に置くとウイルスの濃度が上昇するという実験結果を報告しています。こころない無秩序な採取が日本中のエビネをウイルス病に罹患させたことを思うと心が痛みます。林床に静かに咲くエビネの花々はどれも息をのむ美しさでした。
今日のことば
人間とゆうがは、自分の聞きたい理屈しか聞かんもんやきのう
『空の中』(有川浩)より
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2013.05.02
高校オリエンテーリング大会 カヤランとクモラン
2013.05.02 Thursday
今日は高校のオリエンテーリング大会が行われました。約20万坪の敷地の中に設置された35のポストを探してクイズにも答え得点を競い合いました。保護者の方にも多数、参加をしていただきました。
オリエンテーリングのコースでカヤランとクモランの写真を撮りました。ともに樹上性の蘭で樹木から栄養を得ています。カヤランもクモランも全国の20以上の県で絶滅危惧種に指定されています。「夏休み子供自然体験教室」で講師を務める平本政隆教諭の植物調査によって希少な蘭の校内の自生地が次々に明らかになっています。
今日のことば
高校3年生の短歌より
やさしさのあふれる若葉日に透けてやわらかな風揺れるこもれび
感動の涙と笑顔は紙一重友の笑顔が涙でぬれた
叶うはず君が描いたその夢は頑張る姿ずっと見てきたから
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2013.05.01
ガロアノミゾウムシの驚異の生態 夏休み子供自然体験教室
2013.05.01 Wednesday
コナラ(小楢)に形成される新種のゴール(虫こぶ)について、ゴールの研究者の方から調査依頼がありました。新種の登録をする際に日本各地の分布状況を合わせて記載するためです。残念ながら新種のゴールに出会うことはできませんでしたが、代わりにコナラの若葉に集まるさまざまな生き物と出会うことができました。コナラは里山の雑木林を代表する樹木であり、日本人とコナラとの長い関わりの歴史がコナラに集まる多くの生物の生存を支えてきました。コナラの若葉を好む虫たちの中でも驚異の生態を有するのがガロアノミゾウムシです。ガロアノミゾウムシはいわゆる絵かき虫(潜孔虫)で、葉の表裏の間に潜って葉の組織を食い進み、最後は葉の組織で円盤を作り、地上に落下していきます。その円盤には移動能力があります。円盤が動くのを始めて見た時には度胆をぬかれました。動画を見るとガロアノミゾウムシの幼虫が小楢の葉を使って円盤を作る様子がわかります。
今日のことば
昔の武蔵野は萱原のはてなき光景をもって絶類の美を鳴らしていたようにいい伝えてあるが、今の武蔵野は林である。林はじつに今の武蔵野の特色といってもよい。すなわち木はおもに楢の類いで冬はことごとく落葉し、春は滴るばかりの新緑萌え出ずるその変化が秩父嶺以東十数里の野いっせいに行なわれて、春夏秋冬を通じ霞に雨に月に風に霧に時雨に雪に、緑蔭に紅葉に、さまざまの光景を呈するその妙はちょっと西国地方また東北の者には解しかねるのである。元来日本人はこれまで楢の類いの落葉林の美をあまり知らなかったようである。林といえばおもに松林のみが日本の文学美術の上に認められていて、歌にも楢林の奥で時雨を聞くというようなことは見あたらない。自分も西国に人となって少年の時学生として初めて東京に上ってから十年になるが、かかる落葉林の美を解するに至ったのは近来のことで、それも左の文章がおおいに自分を教えたのである。
「武蔵野」(国木田独歩)より
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