シスター・先生から(宗教朝礼)

2025.06.18

2025年6月18日放送の宗教朝礼から

  みなさんは、自分が「愛されている存在」だと感じたことがありますか?

 昨年9月、フランスルーツへの旅で、今の高校3年生と一緒にパリに到着した夜、祖母の訃報が届きました。祖母は戦前・戦後の小学校で教員をしていた人で、人にも自分にも厳しい面もありましたが、私は小さいころからそんな祖母が大好きでした。思い返すと、祖母からの一番の贈り物は「無条件に私を認めてくれたこと」だったと思います。
「それでいいのよ」「あなたはあなたのままでいい」という言葉が、今も心に残っています。
 私の人生初の海外旅行もパリで、祖母と泊まった「ホテル日航」が、高3の皆さんと泊まったノボテルだったと知り、不思議な縁を感じました。創立者のルーツをたどる旅でありながら、私にとっては祖母との思い出をたどる旅でもありました。神様からの贈り物だったのかもしれません。
 梨木香歩(なしきかほ)さんの『西の魔女が死んだ』という小説をご存じですか? 私の大好きな本のひとつです。
 中学生のまいは、人間関係に悩み、イギリス人の祖母のもとで過ごします。まいは祖母とジャムを作ったり、「魔女になる修行」として規則正しい生活を送り、心を少しずつ取り戻していきます。
おばあちゃんはまいにこう伝えます。
 ・「大丈夫。まいならできますよ」
 ・「やりたくないときは、やらなくていいのです。でも、やりたいなら、やってごらんなさい」
 ・「いやなことがあったら、逃げてもいいのよ。でも、逃げる方向を間違えないようにね」
どの言葉にも、「あなたを信じているよ」「あなたのままで大丈夫」という深い愛情があり、まいもやがて「他人がどう思うか」より「自分がどうありたいか」を考えるようになります。
 「愛されている」と感じた経験は、人に優しくする力になります。 私も、誰かの背中をそっと押せるような言葉を発していきたいと思っています。
 もう一つ、「無条件で受け入れること」の意味を考えさせられた経験を分かち合いたいと思います。
 高校時代、「重度障がい」のある方の施設で、2泊3日のボランティアに参加しました。あるとき、施設の方に30代の男性・Tさんとの散歩を頼まれました。Tさんは落ち着かず、部屋を歩き回り、大きな声を出していました。私は
正直、不安でいっぱいでした。「走り出したら?」「言葉が通じない中で何かあったら?」と。でも思いきって「Tさん、いいお天気ですね」と声をかけ、手をつないでみました。するとTさんは穏やかな表情で歩き始めました。
石や草花、虫に立ち止まりながらの散歩。Tさんが見ている世界に心を寄せてみると、自分には見えていなかった景色が広がっていました。
 時間の流れも景色の見方も違う。でも、その違いを受け入れ、Tさんのペースに身をゆだねたとき、喜びを共有する感覚が生まれました。
 フランシスコ前教皇は「壁を作るのではなく、橋をかけなさい」と繰り返し語っています。その橋の先には、相手の視点に立って初めて見える新しい景色があります。来週の「奉仕の日」では、お掃除や交流を通して人と関わる場面があると思います。
そのとき、「相手の立場に立つこと」「無条件に受け入れること」を大切にしてみてください。
何に喜び、何が心地よいと感じられるのか、体も心もその人に寄り添い、自分にできることを探してみましょう。それこそが、無条件の愛のはじまりだと思います。
 6月20日は「世界難民の日」です。国連UNHCRによると、毎年約30万人の赤ちゃんが「難民」として生まれています。
生まれた瞬間から、安心や住む場所を奪われる命があることを、私たちは忘れてはなりません。ガザでの戦闘や中東の不安定な状況も、多くの人を「故郷を追われる存在」にしています。
私たちは直接、会って支援することは難しいかもしれません。だからこそ、想像力で心を寄せることができます。
 ・眠れない夜を過ごす子どもたちのこと。
 ・家族と離れ離れになった人の痛み。
 ・「安心して暮らしたい」という願いが届かない現実。
見えないその一人ひとりを想像し、祈り、学び、行動する力が私たちにはあります。
神さま、すべての避難を強いられている人々に平和と希望の光が注がれますように。
そして私たちの心に、無関心やあきらめではなく、思いやりと連帯の灯がともり続けますように。
T.H. (外国語科)