シスター・先生から(宗教朝礼)
2025.01.09
2025年1月8日放送の宗教朝礼から
新しい年を迎えました。皆さんはこの冬休み、どのように過ごしましたか。私は最近、子供のリクエストで、ディズニーやジブリの映画を一緒によく観ます。それこそお気に入りの作品は何回も、どころではなく、何十回もリピート要請が入ります。
よく観るお気に入りの作品の1つが、ジブリ映画「魔女の宅急便」です。13歳になった魔女の娘、キキが、一人立ちのために見知らぬ町に住み、ほうきで空を飛んで荷物を届ける仕事を通じて様々な人と関わり、成長していく姿を描いた物語です。観たことがある人も多いのではないでしょうか。私は映画を何度も観るうちに、角野栄子の原作小説にも関心が湧き、読んでみました。原作では、映画よりも多くの人々と関わり、お届け物をし、様々な小さい経験と変化を重ねます。原作小説の方が、キキの気持ちや感情を細やかに表現できているなと感じます。
原作を読みながら、キキの姿を皆さんに、特に中学1年生に重ね合わせて読んでいる自分に気がつきました。ジブリ映画では、コリコの町に来たキキは、すぐさま新しい生活、そして宅急便屋の準備に取り掛かります。そこに迷いや不安はあまりありません。しかし、原作では、パン屋さんの粉置場に部屋を借りた後、3日ほどキキは部屋から出られなくなってしまいます。少し、原作から引用します。引用の朗読は、高2視聴覚委員の皆さんです。
魔女のキキが、このコリコの町にきて、きょうでもう三日がすぎました。
「いつまでいてもいいのよ」
とパン屋のおソノさんがいってくれるのをいいことに、キキは粉置場にずっとこもったきりです。…(中略)…
きょうあたりはもう、そろそろ食べるものを買いに出なければなりません。それなのにキキは、どうしても外に出ていけないのでした。ひっきりなしに聞こえてくる町の音や、窓ガラスごしにいそがしそうに歩いている人たちを見ると、わけもなくおびえてしまうのでした。この町では何もかもが、知らんぷりした顔で動いているように見えるのです。
あの夜、赤ちゃんにおしゃぶりをとどけたときは、もうだいじょうぶと自信がわいてきたのに、その気持はつぎの日の朝には、ぺちゃぺちゃと潰れてしまっていました。
「だってさ、あたし、だってさ・・・・・・」
と、今日も朝から、ことばにもならないいいわけを、心の中でくりかえしているのでした。*1
親元を離れ、右も左も分からない新しい場所に向かい、生活を始める。周りに多くの人はいるけれど、おソノさんのように助けてくれる人もいるけれど、それでも不安な気持ちはどんどん広がっていく。そんなしんどさ、寂しさを、特に寄宿生の方は経験したことがあるのではないでしょうか。
映画のキキも、小説のキキも、こうしたいくつもの困難を乗り越え、成長していきます。キキは、その乗り越えるための原動力を、いつも自分自身と周りの人々との関わりの中から見つけていきます。例えば映画におけるキキの最大のピンチ。それは「空を飛ぶ能力の喪失」です。物語の最終盤でキキはその能力を復活させるわけですが、思想家の内田樹は飛べなくなってしまった理由について、次のように述べています。
(キキの)飛ぶ力は恐怖、不安、そして嫉妬によって損なわれます。つまり、「自分を守ろう」とするとこの能力は失われる。防衛的になり、身体と心がかたくなになると、失われる。逆に、晴れやかな気分の時に活性化し、「誰かのために働く」ときにさらに順調に作動し、「誰かを救おうとする」ときに最大化する。キキの飛行能力を決定しているのは主体と他者との関係なのです。キキの飛行能力は彼女が意のままに制御できるものではなく、彼女がいつ、どうやって飛ぶのかは「主体と他者との関係」において決定されるのです。*2
自分の中だけで完結するものではない、むしろ自分の中だけで完結しようとすると力がなくなってしまう、という点がポイントです。そしてちょうど1週間前の元旦、角野栄子を取り上げた映画「カラフルな魔女」が地上波で放送されました。ご覧になった方もいるでしょうか。その映画の中で、角野栄子は魔女について、次のように語っています。
宅急便っていうのはものを運ぶでしょ。ものっていうのは見えない世界を持ってるわけ。
で、その作られた過程の人の思いも込められてるものだけれども、
それを持っていってくれという頼む人の願いも入っているわけ。
魔女という人はどういう人かしらって思った時に、魔女はやっぱり境目にいる人だったのよ。
見える世界と見えない世界の境目にいてそこをつなげている人だったの。
だから彼女は見えない世界を見える世界と一緒に運びながら 自分もいろんなことを経験していく。
形ある物体を運ぶだけではなく、そこに込められた人の思いも運ぶ。目に見えるものだけではなく、目に見えないものも運び、人と人とをつなげていく。魔女は見える世界と見えない世界の境目、人と人との境目にいて、それぞれをつなげることのできる存在だ、ということです。先の内田樹の話とつなげるならば、魔女は人と人とをつなげてこそ、自分の能力が発揮されるのだ、ということですね。
そしておそらく、このことは魔女だけでなく、私たちにとっても同じことが言えるのだと思います。皆さんは不二聖心での学びの時間を通して、自分自身の使命、自分自身が持つ「魔法」を探し続けています。その「魔法」は、自分一人だけでは見つけられず、必ず誰か別の人の力が必要です。他の人との「つながり」が必要なのです。学習動画がいくつも出て、参考書も山ほど出版され、勉強だけなら家で一人でもできそうな現在、あえて学校という共同体の中で、学び合う意味の1つはここにあるのだろうと私は思います。
新年を迎え、気持ちも新たに、友人やシスター、先生方との関わりを大切にしながら、自分自身の「魔法」を探し続けていきましょう。
最後に、2019年に来日されたフランシスコ教皇様が、若者に向けてお話になったメッセージを紹介して終わりにします。
成長するには、自分らしさ、自分のよさ、自分の内面の美しさを知るには、鏡を見てもしかたありません。さまざまな発明がありますが、ありがたいことに、まだ魂のセルフィーはできません。幸せになるには、ほかの人の助けが必要です。写真を誰かに撮ってもらわないといけません。つまり、自分の中にこもらずに、ほかの人、とくに、もっとも困窮する人のもとへと出向くことです。
これで、宗教朝礼を終わります。
参考文献等)
*1 角野栄子『魔女の宅急便』福音館文庫、2002年 引用:p71-p72
*2 スタジオジブリ編『ジブリの教科書5 魔女の宅急便』文春文庫、2013年 引用:p27
*3 宮川麻里奈監督「カラフルな魔女 角野栄子の物語が生まれる暮らし」2024年公開 引用:劇中のセリフ
*4 『すべてのいのちを守るため 教皇フランシスコ訪日講話集』カトリック中央協議会、2020年 引用:p62
S.N.(社会科/地歴・公民科)