シスター・先生から(宗教朝礼)
2024.10.30
2024年10月30日放送の宗教朝礼から
夏休みに手に取った『シン・スタンダード』という本に1つの問いがありました。皆さんに同じ質問をします。2回読みますので、イメージしながら聞いてください。
あるお父さんが、助手席に自分の息子を乗せて、運転していた。
その車が事故にあい、2人は救急車で近くの病院に運ばれた。
その病院の医師が、運ばれてきた息子の方を見て、「彼は私の息子だ」と言った。
さて、医師まで、男の子のことを「息子」と言ったのはなぜだろうか?(繰り返し)
(参考:サンマーク出版『シン・スタンダード』谷口たかひさ作)
私はこの短い問いを何度も読み直し、しばらく考え込みましたが、ピンとくる答えが分からいまま次を読み進めました。
答えは「医師は、運ばれてきた息子の“母親”であったから」だったのです。なんて簡単な答えなのでしょう。問いを読み、私の頭のなかには、医師=男性ということが無意識のうちに植え込まれていたのです。自分の思い込みの強さにぞっとしました。皆さんの答えはどうだったでしょうか。この問いは、北欧の国では成り立たないようです。なぜなら、女性の医師は珍しくなく、また、女性と男性とを比べると、国の重要なポストにつく割合は女性の方が多い国もあるからです。今や女性の活躍が進んできている日本ではありますが、医師=男性というイメージが日本人に根付いていることは事実です。視野を広げてみると、自分にとっての当たり前が当たり前ではないことがたくさんあるのです。
もう一つ、聞きたいと思います。皆さんが毎日使っている筆箱のなかに「消しゴムが入っていない人」はいますか?おそらく全員入っているでしょう。入っていない人は“忘れた人”であって、忘れたときは、借りにいくと思います。試験の時にも、鉛筆やシャーペンに加え、消しゴムは持っていますか?と確認されるほど、学習する上では欠かせない存在です。さて、世界に目を向けてみましょう。フランスでは、学習をするときにはあえてボールペンを使い、消しゴムを使うことはしないようです。それは、間違いを残すことによって、そこから学び、同じ間違いを繰り返さないためだといいます。間違った過程を含めて先生方は見ているのです。消せないということから、じっくり考えて正解を導く力を養うという目的もあるのかもしれません。「正解だけを書きましょう。余計なものはきれいに消しましょう」と指導をされる日本とは真逆の教育ですよね。消しゴムを悪者として捉える考え方もあり、イギリスの認知科学者のガイ・クラクストンは『消しゴムは「悪魔の道具」だ。消しゴムは「間違いの恥」の文化を作る。間違いを受け入れたほうがいい。実社会では間違いは起きるのだから』と述べています。たしかに、私は、間違ったらすぐに修正しないと!という気持ちになりますし、間違いや失敗をしたら恥ずかしい気持ちになったり、凹んだりします。また、社会人になると、必然的にシャーペンよりボールペンを使う人が多くなると思いますが、私はボールペンより鉛筆を好み、よく使います。それは、木の温もりや書き心地が好きだからという理由でしたが、今考えると、消して書き直しができるという安心感も少しはあるのだと気がつきました。
何が正解かと問われれば、どれも間違いではないと私は思います。でも、いろいろな価値観や文化があることを知り、それらを受け入れる柔軟さを持つことが大切なのではないでしょうか。グローバルな世界に生きる私たちです。このグローバル化は今後も急速に進んでいくでしょうし、世界は常に変わっていきます。だからこそ、私たち自身もアンテナを張り続け、アップデートしていかなければなりません。聖マグダレナ・ソフィア・バラも「時代が変われば私たちも変わらなければなりません」 と言われました。そのために、まず“知識を広げる・理解を深める”ことから始めましょう。1つの分野にとらわれずさまざまなことにチャレンジし、他者や社会、もっと広い世界とも積極的に関わっていくことが大切です。間違いや失敗を恐れる必要はありません。完璧主義は捨てて、軽やかな気持ちで挑戦したり、関わりをもったりしてみましょう。自分で見たこと、聞いたこと、体験したことが、その後の自分を作っていきます。そこから得た感情を大切にしてください。その経験が力となり、おのずと自分の常識の枠が広がってきます。枠が広がってくると、その枠を自由自在に変えられるような柔軟さも持ててくると思います。
パワーがあり、これからいろいろな道を選択し、歩んでいける若い皆さんが羨ましいなと思います。でも、この年齢を理由にする考えも古い考え方ですよね。私も皆さんとともに、アップデートし続けたいと思います。
それぞれが豊かな人間性をはぐくみ、豊かな人生を歩めますように!
これで宗教朝礼を終わります。
参考:サンマーク出版『シン・スタンダード』谷口たかひさ作
Y.O.(保健体育科)