シスター・先生から(宗教朝礼)

2023.11.29

2023年11月29日放送の宗教朝礼から

  今週金曜日からプラクティスが始まります。クリスマスを迎える私たちの準備の一つです。それぞれのクラスで目標を話し合って決めたと思います。フランス文学者であり作家辻邦生の文章をみなさんも読んだと思います。フランスの聖心女子学院の生徒たちが静寂の中マリア像の前で祈り、ジャガイモをかごに移すーーまるで絵画を見ているように思いませんか?

 静けさの中でイエス様のご降誕を待つことはすてきだなぁと教師になったばかりのころ思いました。
 
 待降節を前に今日は私のちょっと苦い経験と、最近の、心にあることをお話しします。
 もう15年以上前、長男が小学4年生くらいのころのことです。クリスマスプレゼントを何にしようか考えていました。本を贈ろうーーいつでも、何度でも読むことができるし、本の世界から知の世界が広がっていく喜びを知ってほしいと思ったからでした。本屋さんにはいろいろな本があります。絵本は家にもある、図鑑もほしいものを購入している、そうだ!辞書にしよう……ということで、辞書を買ってラッピングもしてもらいました。
 夜、枕元に包みを置いておきました。クリスマスの朝、息子が起きて枕元のプレゼントを見つけるとすぐにラッピングを剥がし始めました。中から辞書が出てきました。そのとたん、彼は泣き出してしまいました。「いらない」と言って、放り出し、その後もその辞書を使うことはありませんでした。
 当時、私は「せっかく用意したのに~」と残念に、そして不満にも思っていました。教室で生徒たちにその話をしてみました。それがですね……、私への共感は一切なく、息子たちへの同情の嵐。「ええ~」「先生、それはないですよ」とか、散々に言われました。職員室でも同じ反応で、N先生には「これにクッキーでも添えればよかったのに」とアドバイスされ、ようやく私の至らなさに気づいたという次第でした。
 これは親としての私の失敗談であるのですが、10月7日からのイスラエルとハマスとの戦闘、ガザ地区のニュースを目にする毎日では、私たちが安全に生活し、学習に取り組める幸せを実感します。ニュースや新聞、テレビの報道の中で強い印象の残った言葉がいくつかあります。
 ハマスの侵攻直後、中東の情勢にもくわしいジャーナリストの言葉
「イスラエルとガザ地区は、隔てる壁を境に、まさに『天国と地獄』なんです」イスラエル軍は2008年から2021年まで過去5回ガザ地区へ侵攻しています。その時の様子について、「戦車が人々の家を踏み潰していく」と表現していました。人々の家・生活・営みが無視され、踏みにじられている感覚になりました。その後、廃墟と化したガザ地区の映像を見た人も多いでしょう。
 国境なき医師団の日本人スタッフの白根麻衣子さんの言葉「平和な日本に戻ってくると平和は尊いものだと改めて思うのと同時に、当たり前の日常は紛争や戦争によって一瞬で崩れてしまうと感じました」。
 ガザ市の主要な総合病院シファ病院をハマスの司令部があるとしてイスラエル軍は攻撃しています。今月19日、WHO(世界保健機関)は「デスゾーン(死の領域)」になっているという緊急声明を発表しました。院内は医療物資もなく、麻酔なしで手術が行われたり、新生児をはじめとして集中治療室の患者全員が亡くなったともいいます。院内は医療廃棄物であふれかえり、亡くなったご遺体も放置されている。酷いにおいだという報道も耳にしました。
 日本赤十字社の看護師、川瀬佐知子さんの同僚の一人の言葉「自分たちがどんな悪いことをしたの?命の重さはみんな同じはずなのに、この世界はフェアにはできていない。世界中が自分たちを攻撃している。自分たちに人権なんてない。私たちは本当にミゼラブル(みじめで不幸)だ」
 イスラエル・ハマスそれぞれに正義がある。それを突き通すために、突然襲撃され、人々が拉致される。病院が攻撃される。国際ルールも無視した受け入れがたい行いが起こっているのです。
 わたしたちは世界の平和を願わずにはいられません。争いのない世界を願うのは自然なことです。卒業生の中にも世界を舞台に活躍している人たちがいますが、彼女たちに聞くと、身近な一つひとつの事柄に誠実に取り組んでいたことが伝わってきます。すぐさま世界平和に寄与できるわけではないのですね。
 まずは自分の近くに目を向けませんか?今、自分に必要なことは何か。あなたのまわりは平和ですか?もちろん、私たちにも悩み、うまくいかないこと、不満がありますよね。平和の質が違うのかも知れません。でも、一人一人が自分の正義を振りかざしてばかりでは身近な平和も訪れないのではないでしょうか?
 プラクティスに取り組む静けさの中で今、自分がしなければならないことを後回しにしない、友だちとの関係を温かなものにする努力、自分が守るべきルールを尊重する、具体的なことに取り組みませんか?
(国語科 M.H)