シスター・先生から(宗教朝礼)

2020.06.03

2020年6月3日の宗教朝礼から

 「不要不急の外出は控えましょう。スーパー等の必要な買い出しも数日分をまとめて。」「宅配便、できるだけ対面が控えられるように工夫します。皆様からもご理解、ご協力をお願いします。」「ソーシャルディスタンスを心掛けましょう。」緊急事態宣言下、ニュースを見ても、スーパーに行っても、街を歩いているだけでもこういった言葉をたくさん目にしました。学校でもみなさんをお迎えする前にどうしたらいいのかこの3か月たくさん考えました。「どうしたら感染を避けられるのか。」いつも頭にあるように思います。 

 と同時に、この状況下の中で「どうしようもないさみしさ」を私は抱えていることも事実です。仕事を始めてから、こんなにも生徒のみなさんと会わない時間を過ごしたことは初めてです。たくさんあっていた家族や友人とも会うことができなくなりました。職員室でも多くの先生方とは離れて仕事を進めることが多くなりました。道を歩いていても、週に数回訪れるスーパーでもまず人のいない(少ない)時間を選んで外出し、人がいるときには出来るだけ距離を取るようになりました。
 そんな中、今まですっかり忘れていた大好きな本のエピソードを思い出しました。岡田光世作、「ニューヨークの魔法を探して」より引用します。
―96丁目の角を曲がったところで、地下鉄の轟音が聞こえたので、駆け足で階段を下り、改札を抜けたが、既にホームに電車の姿はなかった。仕方なく向かったホームのベンチには、女の人が一人、背中を丸め、空を見つめていた。中南米のスペイン語圏からの移民、ヒスパニック系のようだった。今、来た電車はCトレインでしたか、と尋ねると、いいえ。Bよ。私もCを待っているのよ、とその人が答えた。(中略)What brought you to New York?(どうしてニューヨークに来たの?)-It's a long story. (話せば長いのよ。)そう言って笑うと、女の人は自分の物語を始めた。――
彼女は、この後自分がプエルトルコ人で8歳の時に自分を置いて家を出ていった母を探して手がかりのニューヨークに来た事を作者に話します。作者は次のように続けます。
――地下鉄でそばに座っていた人はその人と私がたった今、であったとは、想像もしないだろう。――
 もう1つのエピソードをご紹介します。作者岡田さんがサクサクなクラッカーをアメリカの電車で食べていた時、ある男性が水を差しだしてくれたことをきっかけに作者は自分の日本での経験を語りました。日本で「自分の荷物を見ていてほしい」とある女性に頼み、そのお礼にコーヒーを差し出しましたが、その女性はお礼を言いながらも不安そうな顔をしたというのです。「知らない人から絶対に食べ物や飲み物をもらってはいけません。」そう自分も子供の時に言われていたから、そう彼女も思っていたのかもしれない。と著者は当時を振り返って水を差しだしたその彼に話をします。すると彼は次のようにいうのです。その時のことを作者は次のように綴ります。
――A little kindness goes a long way. ( 小さな親切は、大きな成果を生むものですよ。)
あなたのちょっとした行為を、もしかしたらその女性はずっと覚えているかもしれませんよ、と彼は言っているのだろうか。――
これらのエピソードを思い出したとき、同時に私に起こった電車でのある一時も思い出しました。ある奉仕活動を終えた後の電車の中でした。自分の前に座る方が私に話しかけてくださいました。「もしかして、不二聖心の方ですか?」 
 伺うとその方は不二聖心の前身「温情舎」をご卒業された方でした。当時、小さな学校ではあってもたくさんの忘れられない学びをしていたこと。今でも当時の校舎からの自然の思い出を懐古しながら不二のことを思っていること。裾野駅から沼津駅のほんの数分の時を共に過ごしただけでしたが、「お会いできて、そしてお話できてうれしかったです。」そうお互いにお話ししたことを覚えています。電車の中でそれまで見ず知らずの「他人」であったその方が、数年たっても忘れられない大切な存在に変わった瞬間でした。
 オンライン授業が始まり、登校する方にもお会いし、様々な方法でみなさんの顔を見て・声を聞いて本当にうれしく思います。一方でみなさんを守るためですから心配もことさらです。先生たちはみなさんからコロナ感染を避けられることは避けていきたいと思っています。時には心を鬼にして伝えることもあります。でも同時に、こうしてコロナ対策を考える度、私は人と人とのつながりは大切にしていきたいとも強く思います。今は避けても、離れても、あなたの周りにいる人は(見ず知らずの人であっても)大切な隣人であるということ、私たちと心の交流は途絶えてさせてはいけないということを私たちは忘れてはなりません。
 先週、高校掲示板には次のように書かれていました。「3密は避けよう。でも心は一つに!」どうかコロナ禍であっても、物理的な距離が、人と人の間の心の距離になりえませんように。これからもたくさんの人とのかかわりの中で暖かな心が交流し続けていきますように。祈りの中で宗教朝礼を終わりにしたいと思います。
                                         R.I(英語科)