シスター・先生から(宗教朝礼)

2019.11.20

2019年11月20日放送の宗教朝礼から

 11月18日から今日までの3日間、千葉の幕張メッセでひらかれているイベントを知っていますか。それは、「世界最大規模の武器見本市」です。ニュースによっては「防衛装備品の見本市」と表記されていますが、この「武器見本市」はイギリスでこれまで2年に1回開かれてきた世界最大規模のもので、今回、5兆3千憶円規模の莫大な防衛費と高い技術力をもつ日本が開催地に選ばれ、防衛省や外務省、経済産業省などの後援の元、日本での初開催が決まったそうです。陸海空から宇宙、サイバーの分野までカバーする軍の装備品や最先端の技術が展示されているとのことです。

 この武器見本市開催の背景には、武器の輸出を実質的に禁じてきた「武器輸出三原則」を、日本政府が5年前に見直し定めた「防衛装備移転三原則」があるそうですが、私は恥ずかしながら、武器輸出三原則が5年前に閣議決定により変更されていたことを知りませんでした。「防衛装備移転三原則」では、平和貢献や国際協力、それに日本の安全保障に役立つ場合に限り、厳格な審査のもと武器の輸出を認めるとしています。しかし、カンボジア体験学習で、今もなお地雷や不発弾の危険の中で生活し、家族を失ったトラウマに苦しみながら生活している人々を目の当たりにした経験から、武器による平和貢献などありえるのだろうか、と大いに疑問に感じました。ニュースの街頭インタビューでも、「武器を売ることは戦争につながるので反対です」「武器を売ることは70年以上戦争をしてこなかった日本らしくなく、もっと平和的な分野でビジネスをしてほしい」などとと反対意見が多かったように思います。一方で、私たちは他国の核の傘に守られていること、インターネットやドローン、ロボット、ロケットなど最先端技術の開発には軍備品の開発が大いにかかわっていることもあり、自分が戦争や武器開発に全く加担していないと言えない、心苦しさがあります。

 しかし、戦争は絶対になくいたいものです。平和な世界を築くために、私たちには何ができるでしょうか。心療内科医である海原純子さんは、著書の中で次のように語っています。

いま、世界中でさまざまな悲惨な事件が起きている。テロが起きるたびに取り締まりが強化され、銃による事件が起こるたび銃規制が叫ばれる。しかし、もうひとつ根本的に大切なことが、いつもどこかに置き忘れられている。それは自分と異なる思想や生き方を選ぶ人を否定したり、非難したり、憎んだりする心を、いかにのりこえるかというテーマだ。

何万年かかっても、こんなに科学技術が進歩しても、他者を受け入れず存在を許さないという心を進化させることができない。

私は日々、職場や家族で自分以外の人を受け入れられずいら立つ人たちや、受け入れられないことで孤立して苦しむ方たちとかかわっている。そのたびに、自分と全く違う思考回路を取る相手、育った環境が全く異なる相手、自分を嫌って敵対する相手を、どのようにうけいれるかという問題は、たぶん人間にとって最も難しい課題であり、それをのりこえられる人はどのくらいいるのだろう、と思ったりする。

そしてそれは、心療内科の仕事をして悩んでいる方のお話を聞く中で、最も難しいテーマでもあるのだ。悩んで不平でいっぱいの人の話を聞くと、「なんでそんなことで悩むのか」「私は不満のはけ口ではない」「もっとこうすればいいのに」と思ったりもした。そしてその思いは、確実に自分自身の心のエネルギーを奪い、心の活気を低下させた。

この仕事を続けてきてよかったことは、自分とまったく異なる考え方や生き方の相手に対して、少しずつ共感できるようになったことだ。それには、まず自分の尺度や自分の信念をひとまず別のところに置く。そして完全に相手の気持ちと立場になってみる。するとまったく別の世界が、目の前に広がってくるのである。「あ、そうなのか」と思い浮かべる。「それじゃ、そう考えたりするかもしれないなあ」そんなステップを踏むと、相手に対する感情は変わってくる。その思いは相手に伝わり、心がふれ合える。

 世の中を平和に、などと大上段に構えてもはじまらない。まず自分自身が他者を受け入れることで、ちいさな平和を伝えていきたいと思う、

と。
海原さんがおっしゃるように、自分の尺度や信念はひとまず横に置き、相手の気持ちと立場になって考え、違いを受け入れることを大切にしていきたいと思います。

J.N.(英語科)