シスター・先生から(宗教朝礼)
2019.10.30
2019年10月30日放送の宗教朝礼から
いよいよ秋のつどいがあさってに迫ってきました。展示発表や公演に向けて、忙しい中、一生懸命に準備に取り組む生徒の姿がとても輝いて見えます。明日は直前の準備日になりますので、最後まで気を抜かず、すばらしい秋のつどいになるように生徒全員が心を一つにして、取り組んでいきましょう。
毎年、この秋のつどいを乗り越えると、後期中間試験、クリスマスキャロルがすぐにやってきて、今年ももうすぐ終わるのだと実感し始めます。
秋のつどいでは、高1のケーキを始め、様々な食べ物やグッズが売られますが、クリスマスキャロルのときに販売されるものの中に、トラピストクッキーというお菓子があるのはご存じかと思います。
このお菓子のことを不二聖心に勤めた時に初めて聞いたのですが、その時に普通の食品会社ではなく、北海道の人里離れた場所にある修道院で作られているということを知りました。
そして毎年、この名前を聞く度に、トラピスト修道院とはどういうところなのだろうと興味を持つようになりました。
そしていつか行ってみたいと思うようになりました。とはいえ、簡単に行ける場所ではないため、実際に訪れることはなく、その後何十年という月日が流れました。
そして、今年の春休み3月末に北海道に行く機会があり、その時にトラピスト修道院に立ち寄れないか調べてみました。所在地は、函館と日本海側の江差の途中にあり、津軽海峡に近い場所にあります。最寄りの駅は、道南いさりび鉄道の渡島当別という駅で、そこから徒歩で20分位内陸に入ったあたりになります。道南いさりび鉄道というのは、かつて江差と函館の五稜郭を結ぶ江差線というローカル線で、青函トンネル開通後は、津軽海峡線と呼ばれ寝台列車「北斗星」や特急「はつかり」、「白鳥」などの優等列車が頻繁に走り、賑やかな時代もありましたが、北海道新幹線開通後は第三セクターの地元ローカル線として、江差・木古内間は廃線になり、函館・木古内間のみがかろうじて生き残っている路線です。その鉄道にも興味があったので、思い切って訪問してみることにしました。
最寄り駅の渡島当別駅は無人駅で、駅前にはお店が全くありません。周囲数キロにわたり、コンビニもスーパーもありません。驚いたのは、こんなローカル線の無人駅にステンドグラスがあり、マリア像が設置されていたことです。
海沿いの国道に面していて、さびれた漁村が点在しますが駅を降りてもひっそりとしていて人の気配がありません。
国道沿いから、内陸に入っていく道があり、トラピスト修道院の標札がありました。駅を出たのが午後4時過ぎで、今にも雪が降りだしそうなどんよりとした曇り空だったため、人のいない暗い道を歩いていくのは不安でした。
しばらく奥へ進んでいくと、大きなポプラ並木に囲まれた長い道が延々と続き、そのはるか向こうにヨーロッパ風の建物と門が見えてきました。先ほどの漁村の近くとは思えない日本離れした風景で、まるで海外に来たような錯覚に陥り、修道院に続く長いポプラ並木は「ローマへの道」と呼ばれ、行き着く先に見える修道院から厳粛な空気が漂っているのを感じました。
資料によると、トラピスト修道院は、函館教区長ベルリオーズ司教がトラピスト会総長に日本に創立の可能性を打診したのが始まりで、信徒により函館市郊外、現在の北斗市当別の原野が寄進され、1896年(明治29年)10月末には9名の修道士が来日し、同年11月21日聖母奉献の祝日にベルリオーズ司教の司式で修道院の開院式が開かれ、教会法的に正式な創立となったそうです。修道院の正式名称は、付近の葛登支(かっとし)灯台にちなみ、灯台の聖母修道院と名付けられ、所在地から当別修道院とも呼ばれるそうです。
夏は大型バスで観光客も来るようですが、3月末の訪れた時は、周囲に誰もいませんでした。
駐車場近くに小さな売店がありましたが、もう閉まっていました。
正門までくると、大きな格子扉がまるで人を拒むかのように閉まっています。格子扉越しに中庭やレンガ造りの建物を垣間見ることはできますが、この修道院の敷地に入ることは出来ません。正門の左横に小さな展示室がありそこには誰でも入ることが出来ます。展示室に修道院開設当時の写真や修道士の生活について書かれた資料があります。この修道院は、女性は立ち入ることが禁止されていますが、男性は往復ハガキで申請すれば、火曜日の午後2時に限り、修道院を見学できるそうです。
修道院は一般人をかたくなに拒むように、固く閉ざされた門と高い塀に囲まれています。修道士は外との接触を絶ち、神秘に満ちた沈黙の場所で毎日神に祈りを捧げ、「祈り、働く」の生活を送っています。 修道士の一日は、午前3時半に起床してお祈りや読書をすることから始まり、お祈りをして午後8時に就寝すると書かれていました。 外部とは隔離され農業やトラピスト製品を作って自給自足で、祈り中心の生活を送っているそうです。
正門左手に登り路が続いていて、その先にルルドの洞窟があり、洞窟内にマリア像もあると書かれていましたが、「ヒグマに注意」という看板があり、一瞬行くのを躊躇しました。しかし、せっかくここまで来たのだから行かないと後悔すると思い、嫌がる二人の息子を道ずれにして登ってみることにしました。
坂を上がっていくと途中には、トラピスト製品を作る工場や修道士のお墓があり、それを横目にさらに進むと180度の視界が開けてきます。20分ほど歩くとルルドの洞窟にたどり着き、その中にマリア像が佇んでいました。そして、そこからは津軽海峡を挟んで、函館山、遠くに青森・下北半島を望むことが出来ました。
周囲は山と海に囲まれ、静寂に包まれるこの地を明治の時代に開拓をして、自給自足で信仰生活を始め、明治、大正、昭和、平成、令和という長い時間その歴史を引き継ぎ、外部との関係を断ち、祈りの生活をしている修道士がいることに驚きと感動を覚えました。
私は信者ではありませんが、この地に立っていると神様の存在を身近に感じ、高い空から見守られているような気持ちになりました。特別な空間、時間をここで過ごすことが出来ました。
そして、いつの日か今度は修道院内部の見学をしてみたいと思いながら、トラピスト修道院を後にしました。
J.K.(数学科・情報科)