シスター・先生から(宗教朝礼)

2016.05.25

2016年5月25日放送の宗教朝礼から

 これから宗教朝礼を始めます。

 5月、というのは私にとって、「生き方」を振り返る機会が多くある時期です。カトリックの小学校、それもマリア様へのお祈りを大切にしていた学校に行っていた私にとって、5月はマリア様の月で、マリア様の生き方をいろいろ考える月でした。そして、小学校の創立者も中学から過ごした聖心の創立者もともに5月が祝日で、マリア様へのお祈りの行事と創立者の祝日の行事の両方がありました。
 小学校から女子クラス、女子校で過ごしてきた私は、周囲の人をあまり性別で区別することがなく、むしろ、何が得意か、どのようなことに興味があるかといった、その人自身の価値観や行動でその人を判断する傾向が強いです。ですが、5月はどちらかというと「女性としてどのように生きるか」ということを考えることが多くなります。それは、先程話したように、5月がマリア様と創立者の祝日のある月だからです。
 マリア様の生き方は、見る人によっては、ただひたすら信じ従う生き方、という風に見えるかもしれません。しかし、私はそこにマリア様自身の強さがあると思っています。マリア様は大きな試練を何度も受けます。例えば、結婚していないのにイエス様を身ごもったこと。この出来事は、状況によっては石打の刑になってしまうくらい大変なことでした。そうなるかもしれない、ということをわかった上でマリア様はその出来事を静かに受け入れています。イエス様が十字架にかけられて「罪人」として処刑される、心が剣で突き刺されるような悲しみに突き落とされるときも、その出来事を静かに受け入れます。
自分が傷つくとわかっていることを「静かに」受け入れるには、どれほど勇気と強い心が必要でしょうか。マリア様のこの強さには、背後に神様へのゆるぎない信頼があると思います。どのような辛いこと、悲しいことに出会っても、その時には必ず神様が一緒にいて支えてくださる、という信頼です。私がマリア様の姿で一番あこがれるのが、この神様への信頼で、5月のマリア様のお祈りのときはいつもこの姿を思い出し、自分はどうだろうかと自問します。
 また、今日5月25日は聖心の創立者である聖マグダレナ・ソフィアの祝日です。学校では行事の関係で今年は27日の金曜日にお祝いしますが、本当の祝日はマグダレナ・ソフィアが亡くなった今日なのです。
 マグダレナ・ソフィアの生き方にも、マリア様と同じ強さを感じます。周囲の状況がどんなに困難で、大変でも、ゆるぎなく信じ続ける強さです。もう既に宗教の時間にお話を聞いていると思いますが、マグダレナ・ソフィアの生きた時代もまた、激動の時代でした。被害の規模や起きている出来事は違いますが、現在のシリアの状況に近い無秩序と混乱と暴力の時代です。現在頻繁にニュースに出てくる「テロ」という言葉はマグダレナ・ソフィアがちょうど皆さんと同じ年のころのフランスの政治状況が語源となっています。ちょっとした価値観の違いが人々をわけ、対立する勢力を暴力で攻撃することが頻発した時代。ヨーロッパのあちこちでカトリック教会自体が「旧支配層」として攻撃の対象になりました。フランスではあちこちの教会で、この時代に破壊された教会の聖像やステンドグラスを見ることができます。そのような状況の中で、20歳で聖心女子学院をつくられたマグダレナ・ソフィアの生涯は、当然順風満帆なものであるはずはなく、多くの困難と対立とに翻弄されていました。でも、彼女は「イエスのみこころを世界に伝えること、そしてその心をもって世界を変容できる女性を育てること」という使命を、社会がどんな状況でもぶれずに示し続けます。その姿にもやはり、「神様は大変なときに一緒にいてくださる」という強い信頼を感じます。聖マグダレナ・ソフィアがそのように揺らがずにいてくださったからこそ、聖心の学校はヨーロッパだけでなく、アメリカ、アジア、アフリカと世界に広がり、今の不二聖心もその一員としてあるのです。
マグダレナ・ソフィアが大切にされた「イエスのみこころ」とは、どのようなものなのでしょうか。それを皆さんは毎年6月にある「みこころの祝日」で考え、実行しています。つまり、社会のなかで辛い状況にある人、弱い人、困難な状況にある人、このような人々のため、またそのような状況を創り出している社会を変えるために、もの惜しみせず自らを使うこと、です。社会の様々な困難な状況に気づき、知ること。その状況で大変な思いをしている人々の気持ちや望みを理解しようと務めること。そしてその状況を少しでもよい方向へ変えられるよう自ら働きかけること。このようなことを自分は意識しているだろうか、と聖マグダレナ・ソフィアの祝日が近づくと思い返し、その都度、意識しなきゃ、と決意し直します。
聖心の卒業生には、この聖マグダレナ・ソフィアの精神をさまざまな状況で社会に実現している人が多くいます。例えば、アメリカのケネディ駐日大使は先日渋谷で行われた、LGBTと呼ばれる性的マイノリティーの人々を支援するレインボーパレードに参加し、どのような人も自信を持って生活できる社会の大切さをスピーチしました。また、歌手のレディーガガは貧困やホームレスの人々への支援や、東日本大震災での東北への支援をいち早く呼びかけました。メアリー・ロビンソン元アイルランド大統領は国連人権高等弁務官として活躍され、温暖化がもたらす気候変動は、アフリカや太平洋の諸国の人々の人権に関わる問題だ、と主張し、温暖化対策の緊急性を世界に発信しています。不二聖心の卒業生には、一般企業に勤めた後、アフリカの援助を行うためにイギリスの大学院へ行き、現在ソマリアで活動している人がいます。
聖マグダレナ・ソフィアが聖心の生徒に託された思いは、聖マグダレナ・ソフィアが生きていらした時代と同じような困難な状況がある現在の世界の中で、卒業生に、あるいは在校生に引き継がれています。皆さんと共に、今日、そして金曜日の祝日では聖マグダレナ・ソフィアの思いやメッセージを振り返り、自分の生き方をもう一度見直してできることを精一杯していきたいと思います。
これで宗教朝礼を終わります。
H.N.(社会科 地歴・公民科 宗教科)