シスター・先生から(宗教朝礼)
2015.11.11
2015年11月11日放送の宗教朝礼から
おはようございます。これから宗教朝礼をはじめます。
みなさんは、どのような大人になりたいですか。
今、心の中に将来の夢や職業はありますか。
この夏、私は半年ぶりに兵庫県の実家に帰省しました。8人家族だった実家も、この十数年の間に、父と母と祖母の3人暮らしになりました。かつての私の部屋は、私が家を出た後7つ違いの弟の部屋となり、今では帰省した際に過ごす客間となっています。その部屋の片隅には、小学生の頃から私が使っていた本棚が今でも置いてあります。本棚には、幼い頃読んでいた本の中でも思い入れのある本が並んでいます。その本棚の一番下には大きな引き出しがあり、母はこの引き出しを「思い出の引き出し」と呼んでいます。今までゆっくりと引き出しの中を見たことはありませんでした。この夏、この引き出しのことがなぜか気になって仕方なかった私は、一人でこっそり開けてみることにしました。引き出しには、小学1年生の頃に1年間書き溜めた作文を綴った手作りの文集や、小学3年生の頃毎朝発表していた植物観察ノート、学級通信や卒業文集など、なつかしい品々がぎっしり詰まっていました。何だかとても嬉しくなり、まるで宝箱を開けたような気持ちで時間をかけて思い出の品々に目を通しました。
小学1年生の頃の文集を見ていると、”しょうらいのゆめ”「ケーキやさんになること」と言う一文が目に留まりました。記憶にある限り、小学校に入学仕立ての私は、おそらく将来自分が何になりたいかを一生懸命考えたことは無かったように思います。何を書いてよいかも分からず、まわりのお友達の真似をして「ケーキやさんになること」と書いたような覚えがあります。そんな私も2年生になる頃には、とても歌が上手で、いつもわくわくするような音楽の授業をしてくださった先生にあこがれを抱き、小学校の先生って素敵だな、と思うようになりました。3年生の担任の先生からは、学ぶことの楽しさや、内面の成長につながるようなことをたくさん教わり、こんな人になりたいなと思うようになりました。幼いながらにも、先生という職業へのあこがれと共に、どのような人になりたいのかということも、尊敬できる素敵な先生との出会いから思い描くようになりました。今のみなさんと同じ中高生の頃には、思春期の反抗心も混ざり合い、私だったらこう考える、こういう大人にはなりたくない、そんな批判的な感情も加わるようになりましたが、教師という職業の魅力は、私の中で変わることはありませんでした。大学進学を考える頃には、自分の視野や目線にも少し変化があり、教職へのあこがれと共に「人と関わるような職業につきたい」というものにも変化していきました。大学生になって、様々な経験や出会い、専門的な学習の中で、ただ職業につくということよりも、そこでどのような人でありたいか、そこで自分にできることは何かについても深く考える時間が持てたように思います。少しずつ夢は形を変えて、現在の私がいますが、ここに辿りつくまでの道に後悔はありません。職業につくことはできましたが、自分がどのような大人になりたいかについては、まだまだ手探りと模索の日々です。
先月、日本人で23人目となるノーベル賞の受賞が発表されたことは皆さんの記憶に新しい出来事だと思います。アフリカなどで熱帯病による失明から多くの人々を救ってきた大村智さんは、
ノーベル賞の中でも日本で3人目となるノーベル医学生理学賞を受賞されました。農家の長男であった大村さんは、幼い頃から農業を手伝い、お父様から様々な農業に関する知識を教わったと言います。中高生時代はスポーツに明け暮れ、農家を継ぐと思い込んでいた矢先、勉強するなら大学へ行ってよしの言葉をきっかけに猛勉強を始めたそうです。幼い頃からおばあさまには将来「人のためになることをするように」と教えられ、定時制高校の教員になってからは、仕事を終えてまだ油だらけの手のまま急いで授業に来る生徒の様子を見て「もっと自分も勉強せねば」と思ったそうです。そして、その後の20代後半になってから研究者を目指し、研究を重ねて今回の受賞となりました。そんな大村さんの大切にしている言葉のひとつは「チャンスは努力した者のところにだけやってくる」だそうです。最初から研究者を目指してきたわけではない大村さんですが、研究者となるべき要素やきっかけは、大学を出るまでの機会に何度となく訪れたと言います。幼い頃農業で学んだ様々なことは科学者となる大きな財産となり、スポーツに明け暮れた中高生時代の経験は研究チームを統率する彼の基盤となり、定時制高校時代の生徒との出会いがなければ科学者への扉は開かれなかったかもしれないとおっしゃっています。その後も様々な方と出会い、多くの出来事に導かれ今日のノーベル賞受賞へと繋がったそうです。
皆さんは今、小さなことでも自分が努力していると思えることがありますか?今はまだよくわからなくても数年後の自分、未来の自分の夢が叶うきっかけが、現在のみなさんのまわりにもきっとたくさんあるはずです。それがどんなことであるのかが分かるのは、自分の叶えたい夢が形になった時のように思います。そんな日が来るまで、ぜひ目の前にある出来事一つ一つを諦めずに、いろんなことにチャレンジしてみて下さい。そして職業という形だけを終点にせず、そこでどんな花を咲かせるのか、迷ったり後戻りしたり寄り道をしたりしながら、その後どのような実を結ぶのか・・・それは自分次第です。
最後にもう一度、おたずねします。
みなさんは、どのような大人になりたいですか。
今、心の中に夢や職業はありますか。
今みなさんのまわりでおこっている、たとえ小さな出来事でも全て将来の自分を作る一つのピースであることを忘れないでほしいと思います。
A.T.(図書館)