シスター・先生から(宗教朝礼)

2015.06.11

2015年6月10日放送の宗教朝礼から

おはようございます。宗教朝礼を始めます。

  大学3年のある日、食堂で、見憶えのある人に出会いました。あれ、誰だっけ?とモヤモヤしていましたが、よく思い出してみると、同じ小学校に通っていた男の子です。彼は小学校の低学年で、転校し、その後1度も会うことはありませんでした。彼だとピンと来た大きな理由は、耳に付けていた補聴器です。13年程前、小学校1・2年生の楽しい学校生活の様子が甦ってきました。彼は生まれつき、耳が聞こえません。出会った頃から補聴器を付けていたことが強く印象に残っています。私は、てっちゃん。と声をかけましたが、気が付いていません。肩を叩き、大きな口を開けてもう1度、てっちゃん!と言いました。偶然同じ大学に通っていたのです。久しぶりの再会にとても喜びました。耳が聞こえないため、話すことも難しく、慣れなるまで、筆談やメールでコミュニケーションを取りました。スポーツは何をしているの?大学の講義は理解出来るの?などたくさんの質問がわいてきます。そんな私に1つひとつ丁寧に答えてくれました。

  大学の授業では、常に一番前に座っています。教授の口を見て、内容を理解しているのです。分からないことがあると、まず、自分で調べます。授業を追求する気持ちや勉強を楽しんでいる様子がとてもよく伝わってきました。大学では1人でいることが多くありました。友達はサポートしてくれるけど、私はマイペースだから1人の方が楽なんだ。と言っていましたが、その裏には、コミュニケーションという大きな壁があったのです。見た目は普通の人と変わりません。しかし、声をかけても反応がなかったり、話をしても理解してもらえないことが多いのです。私もはじめ、彼が何を言っているのかわからないことが多かったです。話をするたび、簡単な手話を教えてもらいながら、最近では楽しく会話が出来ていますが、短い会話でも、とても集中しなければなりません。彼も健常者と話すのは、見えない壁があると感じるという程、コミュニケーションはとても大変なことなのです。

  スポーツが好きだった彼は、サッカーや野球の少年団に入るのが夢でした。しかし、耳が聞こえずコミュニケーションがうまく取れないため、チームプレーは難しかったのです。入団は諦め、お父様と一緒にキャッチボールやパスをして楽しんでいたようです。そこで、出会ったスポーツがゴルフでした。彼は専門スポーツをゴルフとして、体育大に進学しました。ゴルフなら、風を肌で感じることが出来れば問題ない。とても楽しいと様々なことを教えてくれました。小学校3年生から始めたゴルフを人一倍練習し、ジュニア選手権や日本デフゴルフ選手権で何度も優勝しています。日本の大会だけでなく、世界デフゴルフ選手権にも出場しています。デフとは、耳が不自由な人のことを指します。世界で活躍する彼の夢は、ゴルフで世界一をとること。休みの日は、毎日練習をしています。フォームの研究もとても熱心です。大好きなゴルフに挑戦し、目標を作ることで、人生がとても楽しいと、笑顔で話してくれました。

  先々週の日曜日。不二聖心の隣にある東名カントリーで行われるゴルフの大会に出場すると連絡が来たので、応援に行きました。彼は、聴導犬のサミーを連れていました。サミーは生活の中で必要な音を、知らせてくれます。皆さんは聴導犬を知っていますか?見たことがありますか?聴導犬は日本で誕生して約30年経っていますが、私も見たのは今回が初めてです。盲導犬や介助犬は、介助される人を見れば分かることが多いですが、耳が聞こえない人は見た目では分かりにくいです。また、盲導犬や介助犬は人を守らなければいけないため、基本的に大型犬ですが、聴導犬は、音を伝えるのが仕事なので、小型犬でもなれるのです。そのため聴導犬は、ペットとしての犬を連れていると勘違いされてしまうのです。聴導犬はまだ認知度が低いため、外食するのも、ショッピングに行くのも、説明をしなければならない時が多くあります。しかし、うまく話せなくて言いたいことが通じず、理解してもらえないため、諦めることもあるようです。実際にこの大会の当日も食事に出かけましたが、よく行っている大きなチェーン店がいいな。他の場所だとサミーの事を説明するのが大変だからと言っていました。そして、お店に入り、定員さんに彼が話をしてもうまく伝わらず、私がフォローして、理解したという場面もありました。
 
  一方で、最近は、電話が出来るようになったと言っています。メールでオペレーターと連絡を取り、オペレーターが代わりに相手に電話をしてくれるシステムです。耳が聞こえない人は、上手く話せません。救急車を呼びたくても通じなかった時代から、このシステムのおかけで命も助かるようになった。と喜んでいました。
  誰にでも優しい社会環境づくりをすること、誰もが安心して生活できるように社会が支えていくことの大切さを改めて感じました。

  大学を卒業してすぐ、彼は結婚しました。彼の奥さんも生まれつき耳が聞こえません。彼女は、アメリカ留学を経験し、今は、国際手話通訳や大学での講義、聴導犬活動などをしています。世界を飛び回り、様々な分野で幅広く活動している彼女ですが、障害を克服するという言葉は使いません。自分のやりたいことをやっているだけだと言います。活動を楽しむことが彼女の生きがいなのです。何かにチャレンジしないと平凡な毎日になってしまうからと、挑戦し続けています。

  近くでゴルフの大会があると連絡をくれます。私より、何倍も、何十倍も多くの経験をしている彼らの話は、とても濃く、心に響くものばかりです。その度、私は刺激を受け、やる気が湧いてきます。
常に前向きで、人生を楽しんでいる2人。耳が聞こえないなんて、関係ない!楽しまなくちゃ!と口を揃えて言います。辛いことも大変なことも全て経験です。人生の糧となるのです。自分らしさを出していきたいという彼らの生き方、素敵だと思いませんか。

  皆さんは人生を楽しんでいますか?どんな生きがいを持っていますか?何を目標に生きていますか?
人生は一度きり!一瞬一瞬、確実に歩んでいきましょうね。そして何よりも楽しんで行きましょう!

これで、宗教朝礼を終わります。


Y.O.(保健体育科)