シスター・先生から(宗教朝礼)
2015.02.11
2015年2月11日放送の宗教朝礼より
先日、新聞を読んでいて、興味深い記事に行き当たりました。
野生動物の自然の交雑種がよくみられるようになった、というのです。その記事によれば、アメリカ北東部ニューイングランド地方で、オオカミとコヨーテとイヌの交雑種が増えているのだそうです。森林が伐採されなくなったため森林面積が増加し、シカなどが急増したことを背景に分布を拡大しているのです。オオカミは最も獰猛でありながら人間に対する警戒心が最も強く、北米では主にカナダの人里離れたところに生息しています。コヨーテは体長1メートルくらいで、単独、あるいは群れをつくりながら、しばしば人間の居住地域に近いところでウサギや野ネズミを捕って生活しています。そしてイヌは人類と長い歴史をともに生きてきました。この3つの動物がかけ合わさってできた中型の猛獣は、シカを倒すに足るだけの獰猛さをオオカミから受け継ぎながら、同時に人間の住む地域にも平気で入り込めるのです。
アメリカ、ニューイングランド地方といえば、ニューヨーク、ボストンなどの大都市のある人口密集地、その周辺で、森林が回復し、シカが害になるほど増えてしまった環境の変化にいち早く適応したのが、このオオカミとコヨーテとイヌの交雑種でした。専門家の調査によれば、純粋のコヨーテの5倍の速さで生息域を拡大しているとのことです。交雑をすることでより人間の居住地域が生息適地になった点で興味深いといえます。
その記事でもうひとつ紹介されていたのが、ピズリーと呼ばれるクマです。2006年に野生のピズリーが初めて確認されました。淡い灰色のクマが猟師によって打ち取られ、DNA鑑定をしたところ、ホッキョクグマとハイイログマの交雑種であることが判明しました。ピズリー、というのは、英語のポーラーベアーとグリズリーベアーを組み合わせた造語でその交雑種の俗称です。
ホッキョクグマは地上最大の肉食動物で、北アメリカ大陸北部、ユーラシア大陸北部、北極圏に生息しています。一方、ハイイログマはかつて北アメリカ大陸西部からメキシコ北部まで広く生息していましたが、近年数が減り、アラスカの一部、カナダ西部などにのみ生息する雑食のクマです。ホッキョクグマは氷の上で生息繁殖、一方ハイイログマは陸上に生息繁殖するので、本来この2種は交雑することはありませんでした。それが、ここにきて、ピズリーが目撃されたり、捕獲されたりすることが出てきました。何故でしょうか。その背景として挙げられるのが地球温暖化です。
地球温暖化が進むことで、北極の氷が溶け、ホッキョクグマがその生息地を急速に奪われ、絶滅危惧種に指定されていることをご存知の人も多いでしょう。氷が溶けたことで内陸に降りてきたホッキョクグマと、もともとすんでいたハイイログマが交雑するようになったと考えられているのです。
ピズリーの出現は、何を意味しているのでしょうか。
氷の上や水中でアザラシなどを捕って生きてきたホッキョクグマは、陸地に降りてきても最終的には生き延びられない、と考えられています。このまま北極の氷が溶けされば、ホッキョクグマは生きる場所がなくなり、地上から消え去ってしまうでしょう。ただ、ハイイログマと交雑することで、ホッキョクグマの遺伝子は残せることになります。つまり、交雑は、生息地を奪われる現状にある意味適応した行動と言えるのです。
現在、地球上で1年間に4万種以上の生物が絶滅していっていると推定されています。また、哺乳類では約20パーセント、カエルなどの両生類では30パーセントがすでに絶滅危惧種に指定されており、近い将来絶滅危惧種になると予想されている生物は哺乳類で49パーセント、鳥類では77.7パーセントといわれています(学研サイエンスキッズ)。こうした中で、ある種の生物は、交雑を通してしたたかに生きのびようとしているということがその新聞の記事からわかりました。私は記事を読みながら、生命の力強さに心打たれるとともに、あらゆる生物のつがいを乗せた地球という方舟が今後どこに向かおうとしているのか、人間による環境破壊という「大洪水」を少しでも止めるよう努力をしていかなくては、との思いを新たにしたのでした。
C.K.(寄宿舎)