シスター・先生から(宗教朝礼)

2012.05.30

2012年5月30日放送の宗教朝礼より

 おはようございます。これから宗教朝礼を始めます。

「あきらめてはいけない。」これまでの人生で何度も耳にした言葉ですが、私はこれまで、「あきらめること」の意味を深く考えることはなかったと思います。そんな私にある出来事が起こりました。

 数週間ほ ど前に、私は兄弟に会うため、静岡県西部の浜松市を訪れていました。土曜から来て、日曜はゆっくり帰宅するつもりでしたが、急に連絡が入り、旧友が静岡へ 遊びに来ていることを知りました。開通したばかりの第二東名のサービスエリア巡りをする予定だったらしく、一緒にドライブをしないかと誘われ、久しぶりに 旧友に会えるということで私はすぐに返事をし、浜松駅から最寄りの浜松サービスエリアで落ち合う約束となりました。しかし、静岡県民でありながら、私は県 西部の土地勘がほとんどなく、目的地への交通手段がまったくわかりませんでした。それでも、方角さえ合っていれば、いつか目的地には着くだろう、という安 易な気持ちで駅の案内所に向かいました。ここから、私の浜松一人旅のスタートです。

 どうや ら、浜松サービスエリアへは電車で向かうことがコスト、所要時間を考え割がよさそうだったので、私は浜松駅から遠州鉄道と天竜浜名湖鉄道を乗り継いでサー ビスエリア付近のフルーツパーク駅へ向かうことにしました。慣れない路線の乗り換え案内を駅職員の方は二人がかりで丁寧に教えてくださいました。案内され た通りに浜松駅で時刻表を広げ発車時間を確認していると、改札付近にいた女性職員の方が「こちらが最近改訂された新しいダイヤですので、どうぞ」と、親切 に時刻表の差し替えを下さいました。お礼を言い、電車に飛び乗り、終着駅の西鹿島(にしかじま)という駅まで30分。天竜浜名湖鉄道(天浜線)に乗り換え をする際にも、駅員さんはどのホームから何時に天浜線が出るか丁寧に教えてくださいました。

 天浜線は 単線の1車両からなるワンマン電車で、1時間に1本しかダイヤが組まれていない、いわばローカルな鉄道でした。森の中をぐんぐん進み、みかん畑や広大な 段々畑を通り、緑のトンネルをぬけ、映画に出てくるような大自然の中を走る電車にとても感動しました。私は、しばらくその景色を写真に収め、沿線に香る豊 かな四季をうっとりと眺めていました。後から分かったことですが、天浜線は36もの国登録有形文化財を有する歴史的な鉄道遺産だそうです。そうこうしてい るうちにフルーツパーク駅に到着しました。驚いたことに、そこは無人駅で、改札すらなく、自然の中にちょこんと作られた三角屋根の駅舎でした。あわてた私 は電車の発車直前に車掌さんに「駅からタクシーに乗るつもりでいたが、どのタクシー会社に連絡をとればよいか」たずねました。すると運転手さんはわざわざ 電車からおり、電話をかけタクシーの連絡先を調べてくださいました。駅員さんの親切心に感動したのもつかの間、駅に降り立った私に最後の試練が降りかかり ました。なんと、タクシー会社が混んでおり、到着に1時間以上かかると言われてしまったのです。日も暮れてきて、誰もいない、見知らぬ駅で私は突如、一人 残された状態になり、それまでの興奮や喜びから一転、急に心細く不安になってしまいました。友人はとうに待ち合わせ場所へ到着しており、私を待っていま す。歩いて向かうにも、土地勘もなく距離感もつかめなかったのであまりに危険であると感じ、ついにはフルーツパークにて私の一人旅は終止符をうつの か・・・と途方にくれていました。するとしょんぼり座り込んでいた私を見て、ある老夫婦が声をかけてくださいました。「どうかしましたか?」私は事情を説 明し、どうにも困っていることを伝えると、その老夫婦は「私たちでよければ近くまでご案内しますよ。」とおっしゃいました。突然の出来事に驚きながらも、 優しそうな二人の声に「これは救いの神だ!」と思い、ご好意に甘えることにしました。そうして私は浜松駅から2時間ほどかけてついに目的地の浜松サービス エリアにたどりつくことができたのでした。サービスエリアで待ち構えていた友人を見たとたん、それまでの緊張が解け、安堵のため息と共に涙が出てきそうに なりました。こうして、私は老夫婦に感謝をつげ、無事第二東名ドライブをスタートすることができたのです。

 今回、友 人からこの誘いを受けた時点で「交通手段もわからないし、迷うことになりそうだ。知らない場所まで方角だけを頼りに一人ですすめるものか?」と思い、あき らめようともしました。しかし、久しく会っていなかった友人との再会を逃すには惜しいと感じ、今回の一人旅を決行したのでした。

 電車の接 続に悩み、フルーツパーク駅で取り残されるたびに「もうあきらめようか」と何度も考えました。引き返すことはとても簡単だったと思います。しかし、最後ま であきらめなかったことで私は友人との再会の喜びだけでなく、駅や車内で多くの浜松市民の優しさに触れることができ、この町が大好きになりました。それま で気づかなかったその町の人の温かさ、見ることのなかった大自然の美しさ、なにより友人との楽しいひと時。あきらめていたらこれらをみて、聞いて、感じ て、心温かになることすらなかったと思うと、「あきらめてはいけない」ことがどういう事かわかる気がしました。

 みなさん も、何かに挑戦しようと思ったとき、また新しいことをはじめるとき、たとえそれが困難なことであっても、挑戦する気持ちをもち、うまくいかなくてもあきら めるのではなく、どうしたらよいのか考える姿勢を大切にしてください。そして人との関わりの中で新しいことに触れ、学ぶ機会をぜひ増やしてください。

 今週は中間試験が始まります。最後まであきらめず、わからないことをわかるようにする努力、知らないことを知る努力を惜しまずしてください。きっと、最後まであきらめないことで、予想外の気づきや発見があるはずです。

 これで宗教朝礼を終わります。

E.S.(寄宿舎・英語科)