校長室から
2015年03月
2015.03.17
『卒業研究』巻頭言より(2015年3月17日)
不二聖心女子学院の「卒業研究」の起源は、1978(昭和53)年に始められた「中3個人研究」にあります。この試みは、学院の目指す「創造性に富む堅実な思考力と正しい判断力を育てることを具体化していこうとするもの」であり、「各教科の枠を越えて一人ひとりが興味のある問題を自主的に、長い月日を費やして深く研究していくという作業を通して『学ぶこととは何であるか』を体得させたい」との願いから始まりました(1985(昭和60)年度『中3個人研究』)。生徒一人ひとりに対するメンター制度、秋のつどいでの研究発表、口頭試問、冊子発行等、今では当然のことのように行われていますが、35年前、最初にこのアイディアを共有し、実現の可能性を模索し、ついには研究体制を立ち上げられたシスター・先生方の教育への情熱と、新たな学習の地平を見つめて真摯に研究に取り組んだ生徒たちの姿勢に深い尊敬の念を覚えます。
アーカイブ室には、歴代の卒業生全員の研究が掲載された冊子が大切に保存されており、研究方法の変遷や研究環境充実の過程を知ることができます。1986(昭和61)年には中学校の学習の集大成の意味を込めて名称を「卒業研究」と改め、今日に至っています。本年度からは、6カ年の学習デザインの中で、Foundation からOriginalityへの架け橋として卒業研究を位置づけることと致しました。
2013年度の学校目標「知性を磨く~若さを価値あるものとせよ~」を胸に、知の可能性に挑戦した生徒たちが、今後の学びの中でこの経験を「各々に与えられた使命」とつなげて、深めていってくれるよう心から願っております。
2015.03.10
『欅坂』巻頭言より(2015年3月10日)
不二聖心女子学院の塔の中には、タワーベルがあります。毎朝、この鐘が響き渡る時、学院全体が深い沈黙で包まれます。この鐘は、草創期に初代院長マザーエリザベス・ダフが、不二聖心の生徒のためにオランダに作成を依頼したものです。1953(昭和28)年、大海原を超え、長い船の旅をして鐘がこの地に辿り着いた時、学院では祝別式が催され、「マリア・アミリア」と命名されました。当時は校名がまだ「聖心温情舎」だった時代で、学院の建物は山の下にありました。最初にこの鐘が吊るされたのは、「温情舎」時代に岩下家が所有していた小さな聖堂でした。
なぜ「マリア・アミリア」と名付けられたのでしょうか?聖心の歴史の中に、その答えがあります。聖心会が日本に学院を創立するために、日光丸という船に乗って、オーストラリアのシドニーを出発したのは、1907(明治40)年12月3日、聖フランシスコ・ザビエルの祝日です。近代化政策を推進する日本政府から女子高等教育機関を設置してほしいとの要請を受けた教皇ピオ10世により、その使命を委ねられてのことでした。聖心会総長マザーディグビーは、すでに学院が根付いていたオーストラリア管区の管区長であるマザーアミリア・サルモンにこの使命の遂行を託しました。この方こそ「マリア・アミリア」--、学院の鐘の名の由来となった方です。
マザーサルモンが、日本の聖心女子学院の礎石となる4人の修道女たち(マザー ブリジッド・ヘイドン、マザー メリー・スクループ、マザー エリザベス・スプロール、シスター メリーケーシー)と共に横浜港に到着したのは、1908(明治41)年元旦のことでした。この年は、創立者マグダレナ・ソフィア・バラが福者(聖人の前段階)として列福された記念すべき年でもありました。2月28日には、第2陣の8名がヨーロッパから到着。未知なる国であった日本での生活は13人の修道女にとって新しい経験の連続でした。困難もあったでしょうが、それ以上に聖心女子学院創立の志に燃え、新しい経験を喜びをもって分かち合っていた様子が伝わってきます。この年の春、日本での生活が軌道にのったのを見届け、マザーサルモンはオーストラリアに戻りました。以後、マザーはオーストラリアから、日本の学院創立を見守ることになります。
一方、「マリア・アミリア」は、山の上に校舎が建設た第1校舎と修道院の間のコネクションの屋根の上に安置された時代を経て、現在の聖堂が完成した1960(昭和35)年から塔の中に置かれました。この間、いつも生徒・教職員と共にあり、学院のシンボルとして、不二聖心の歴史を間近で見守ってきました。1979(昭和54)年からは、朝礼時に鐘が鳴らされる時、沈黙の祈りが捧げられるようになりました。この学院を貫く沈黙の時間が、生徒たちの中に内的な力を育み続けてきたことはいうまでもありません。
特に、本年度「フロンティア・スピリット」を学院目標に掲げて過ごす中で、鐘の命名の由来を思う時、毎朝、学院に鳴り響く鐘の音が、「マザーサルモンのように異なる文化・未知なる世界へ、広く、深く、心を開いていきましょう」と、生徒たちを促しているように聴こえて参ります。
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